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都市―農村の有機物循環とそのシステム構築に関する実践研究 ―地域の価値観と科学的知見の融合をめざして―

Last Updated :2025/03/21

研究室情報

基本情報

プロジェクト区分フルリサーチ(FR) 
期間 2024年04月 - 2029年03月
プログラム実践プログラム 環境文化創成プログラム
プロジェクト番号14210162
研究プロジェクト都市―農村の有機物循環とそのシステム構築に関する実践研究 ―地域の価値観と科学的知見の融合をめざして―
プロジェクト略称有機物循環プロジェクト
プロジェクトリーダー大山 修一
URLhttps://organic-rihn.chikyu.ac.jp/
キーワード物質循環、廃棄物処理、⽣業システム、農業利⽤、緑化、⽔・衛⽣、環境修復
  • 2024年度の課題と成果

     

    研究目的と内容

    1.研究プロジェクトの全体像 

     

    本欄には、以下を具体的かつ明確に記載してください。

    1)目的と背景

     

    本研究プロジェクトの目的は、都市に蓄積した有機性ごみとその栄養分を農村へ還元し、農牧業を中心とする生業基盤の修復や荒廃地のリハビリテーションに結びつけることで、地球上の都市と農村のあいだのバイオマス循環システムを構築することにある。生態学においてバイオマスは現存量といわれ、植物や動物などの重量を指すが、バイオマス資源は食料や衣料、工業製品の原料となる農産物、建築用材や燃料となる木材、あるいはバイオエタノールやバイオディーゼルといった燃料となる資源作物が含まれる。これらのバイオマス資源は食料や衣料、燃料、建材に使用されるとともに、使用されたのち食品系廃棄物、し尿や下水汚泥、木質系廃棄物といったかたちで排出される。

     

    世界各国ではCO2をはじめとする温室効果ガスの排出をゼロとする脱炭素化やカーボンニュートラル社会への移行が求められているが、国・地域によって食料問題や貧困の解決、資源開発、経済成長などの問題が複雑に絡み、その対応は容易ではない。本研究計画では、日本とアフリカ各国における経済・社会システムの現状をふまえたうえで、カーボンニュートラル社会への移行には燃焼からの脱却が必要であると考え、廃棄物の焼却処分から分解による処理プロセスへの移行をすすめ、荒廃地や生業基盤の修復、農業生産性の維持にむけたバイオマス資源の利用促進に貢献する。

     

    各地域(日本、アフリカ)における経済状況や食料事情、有機性廃棄物に対するローカルな価値観とその利用実態を調査するとともに、環境・生態的な持続性、経済的な持続性、保健・衛生的な持続性の観点から科学的な検討をくわえ、都市と農村における有機物循環システムの構築にむけて、有機性廃棄物の有用性に対する新しい価値観の創出と持続的な社会づくりをめざす。なお、20244月のFR開始どきには東南アジア(ラオス、マレーシアの2か国)を研究対象として入れていたが、共同研究員による研究継続が困難となったこともあり、松田素二PDと相談したうえで、日本とアフリカを主な対象とすることにし、来年度(2025年度)には東アフリカのジブチ共和国を調査対象として加えることで準備を進めている。

     

    2)地球環境問題の解決にどう資する研究なのか

     

    地球における土壌の厚さには気候帯、および土地利用によりバリエーションがあるが、土壌資源には限りがある。地球上の人口は2050年に100億以上になることも予想されているが、人類は限られた土壌で食料を生産し、生存していかねばならない。農牧業による土地の酷使や土壌侵食もあり、食料の生産が需要に追いつかないことが危惧されている(FAO 2019)。人類が口にする食料は清浄である必要があり、捨てる有機性ゴミやし尿はその汚穢によって忌み嫌われる。人類は哀しいことに、科学にもとづき築き上げてきた衛生観念のドグマによって、うまく地球システムのなかにみずからの存在を位置づけることができていないのが実情である。今後の都市を中心とする文明が持続性を獲得するためには、清浄から汚穢を生み出す人間の性(さが)を受け入れ、その汚穢から清浄を生み出す、物質循環と生命の生まれ変わりの重要性を理解し、地球システムから分離した人類の存在を地球システムのなかに位置づける思考・価値観の転換が必要である。

     

    イギリスやアメリカでは、下水処理が施されたあとの下水汚泥はsewage sludgeと呼ばず、バイオソリッド(biosolid)という名称がつけられて農業利用が進められている。日本と東南アジア、アフリカにおいて、各地の農耕システムにおける農業生態系、国・地域およびグローバルにおける物質循環という重層的なスケールを組み合わせ、有機性廃棄物の有価値化とわれわれの意識の変革を通じて都市と農村とのあいだの有機物循環の構築に取り組み、現代社会の変革と確かな持続性に寄与したい。

     

    3)研究手法・構成・ロードマップ

     

    本研究プロジェクトでは、日本とアフリカ(ニジェール、ザンビア、ガーナ、ウガンダ)を主な対象とし、来年度からはジブチを対象国に加える予定である。有機物循環の現状や循環システムの構築を検討するときには、(1)生産の単位となる世帯や農村の耕作地、(2)都市や流域を単位とした地域(市町村)、(3)輸出入の単位となる国家、そして(4)グローバルの各レベルを統合して考えていく必要があり、地域・時代の政治・経済システムとあわせて、地域スケールを変更するリスケーリングの考え方を援用し、持続的な社会づくりをめざす。研究項目は、【1】耕地や農村、地域、世界をめぐる有機物資源の物質循環にかかる現状分析、【2】有機性廃棄物の分解メカニズムの解明と安全性の検証、【3】有機物循環の構築にむけた新しいネットワークと価値観の創出である。日本とアフリカという地域によって独立した研究班を組織するのではなく、農村と都市の生産や消費、廃棄から物質循環を検証するため、農村と都市の両者をつなぐ物質循環を分析するため、あえて研究班は設けない。都市の経済社会状況に応じて、各地域で求められる物質循環のあり方は異なり、地域およびグローバルの視点で、ともにグッド・プラクティスとなる物質循環システムを構築していく。

     

    【1】バイオマス資源の物質循環にかかる現状分析

     

    1-1 農業生態系における物質循環(阪本、小坂、土屋、牛久、桐越、原、中澤、中村、大山):日本とアフリカの3地域における農業様式と耕地生態系、および都市-農村間の農産物流通の解明に取り組む。日本では水田稲作と畜産、アフリカでは焼畑と農牧複合、園芸作物をふくむ近代農法を主な対象とする。それぞれの地域における農業様式や環境利用の実態、生業基盤の荒廃を調査したうえで、農家による消費形態を調査するとともに、地域、またはグローバルに広がる農産物の流通システムと流通する農産物の量を統計資料などによって明らかにする。また、農村における施肥技術に着目し、化学肥料や畜糞、コンポストなど資材利用の実態を分析する。有機性廃棄物に対する意識や価値観を明らかにし、バイオマス資源の循環を進めるブレークスルーを検討する。

     

    1-2 都市における廃棄物の処理とバイオマス資源の集積(原田、阪本、矢部、土屋、小坂、中澤、大山):日本とアフリカの都市において廃棄物の排出と処理、衛生環境を調査し、し尿・下水と、そのほかの廃棄物に分けて、家庭における廃棄物の種類と重量、回収と処理方法について調査する。日本では東京や大阪、京都の中心市街地におけるディスポーザーと下水処理の問題、生ゴミや下水汚泥の処理方法に着目し、分解を中心とする処理プロセスと農業利用にむけた課題を明らかにする。アフリカではゴミの分別はさほどおこなわれておらず、オープンダンピング――野積みによるゴミの埋め立てが主流であり、家庭系や下水汚泥といった有機性廃棄物の農業利用や生業基盤の修復にむけた課題と方策を検討する。コンポストの義務化を進めるアメリカやヨーロッパの事例も参照する。

     

    1-3 農産物の輸出入をめぐる物質循環(バーチャル・ニュートリションの計算)(矢部、大山):FAOが集計する農産物の輸出入データ(FAOSTAT)などを利用し、世界196ヶ国を対象として、バーチャル・ニュートリション・マップ(VNP:仮想栄養地図)を作成する。VNPとは、バーチャルウオーター(VW)の考え方を援用し、本プロジェクトが独自に作成するものである。VNPでは、1)輸入国は世界各地からどのくらいの栄養分(窒素とリン酸、カリウムなど)を集め、自国の国土に栄養分を集積しているのか、そして、2)輸入国が農産物や木材を生産すると仮定したら、どのくらいの量の栄養分が必要なのかという2種類の地図を作成する予定であり、世界196ヶ国の栄養分の移動収支を示す。

     

    【2】有機性廃棄物の分解メカニズムの解明と安全性の検証

     

    2-1 有機性廃棄物の施用による緑化および作物生産力の分析(中野、小坂、鈴木、原、大山):日本の水田稲作や畑作地、アフリカの畑作において家庭系廃棄物や木質系廃棄物、下水汚泥といった有機性ごみを施用する圃場実験を実施し、土壌性状の変化や作物収量の改善効果、および荒廃地における環境修復の効果を検証する。

     

    2-2 有機性廃棄物の分解メカニズムの評価(鈴木、中野、中村、原、大山):2-1の圃場実験において、耕地土壌に対する有機性廃棄物の投入とその分解プロセス、植物によって吸収できる形態となる無機化プロセスを、気象条件とあわせて土壌の物理性と生物性、化学性に着目して検証する。また、土壌面におけるCO2フラックスを測定し、有機性廃棄物の投入と緑化にともなうCO2の排出/吸収の効果、および土壌における炭素貯留量を計測し、温室効果ガス抑制の効果を解明する。

     

    2-3 有機性廃棄物の農業利用をめぐる安全性の検証(原田、中村、鈴木、大山):都市で排出される有機性廃棄物とくに下水汚泥には鉛やカドミウム、クロムなど有害重金属が含まれる危険性があり、各地域において危険性に対する懸念は根強い。EDX(蛍光X線分析装置)による簡易検査システム、有害物質の除去および希釈の技術を開発し、有機性廃棄物の農業利用にむけて健康リスクを除去し、住民の受容性の向上をめざす。

     

    【3】 有機物循環システムの構築にむけた新しい価値観の創出と社会づくり

     

    都市から農村への物質移動と有機物資源の投入による荒廃地の修復や農牧業の生業基盤の改善実験を進め、各地の実情に沿った有機性廃棄物を利用した農業生産の改善と荒廃地の修復に関するマニュアルづくりに取り組む。有機性廃棄物に対する「汚い、危険、有害」といった価値観の転換と有価値化を進めるため、研究成果と住民の合意形成をベースにし、分解を基盤とする有機物循環システムの構築に必要な社会条件、住民の意識変革、および社会づくりにむけた提案をしたい。

     

    3-1 水を使わないドライ・コンポストの技術開発(大山、塩谷、青池、野田):周囲で入手できる資材、簡便な方法により、台所の生ゴミを処理し、土壌に栄養分を戻すことができるドライ・コンポストの技術を確立する。においを出さず、分解を進める技術の開発を進めている。ウェスティン都ホテル京都からの協力を受けて、有機性ゴミの処理とモニタリングを継続している。

     

    3-2 京都市動物園で飼育されている動物糞を利用した堆肥づくりと環境教育(大山、山梨、齋藤、野田、青池、塩谷):このドライ・コンポストでは鶏ふんをはじめとする動物糞を利用することで、効率的に有機性ゴミを分解できる。京都市動物園で飼育されているアジアゾウやシマウマ、キリン、トラ、チンパンジー、ゴリラなど9種の動物糞を提供してもらい、動物糞と有機性ゴミの分解プロセスを観察している。将来的には、動物糞を利用したミニコンポストづくりと環境教育の手法を作成する。

     

    3-3 ザンビアの首都ルサカにおける有機性残渣を利用した養豚と堆肥づくり(大山、青池、野田):ザンビアでは、化学肥料を使用した近代農法による土壌荒廃が深刻である。種皮を取り除いたトウモロコシを利用するため、多くの種皮部分が有機性ごみとなる。また、ビールや醸造酒の生産による大量の残渣が出てくるため、養豚をおこない、その糞を利用して、レストランやマーケットからの食品ゴミを使って、ドライ・コンポストによる豚ぷんの堆肥づくりと土壌改善をすすめる。

     

    3-4 京都府内小学校における総合的な学習の授業提供と授業のマニュアルづくり(大山、塩谷、野田、青池、前畑):地球研と京都府教育委員会との協定にもとづき、京都府内の小学校4校と特別養護学校1校で総合的な学習(探求)の授業を提供している。

     

    4)期待される成果

     

    本研究計画によって期待される成果として、(1)巨大化する都市の存在と食料の輸出入が各地の生態系や物質循環にとって大きな環境負荷となっていることを可視化すること、(2)都市由来の有機性廃棄物の活用によって熱帯林の修復、砂漠化対策としての荒廃地の緑化、地域における農業生産の改善・向上に役立つことを示し、その指針・マニュアルづくり、価値観の転換を進めること、(3)有機性廃棄物を農業や緑地再生に活用するという前提に立って、われわれの生活スタイルの見直しと都市インフラ(ゴミ回収・処理、下水処理)の整備を促進することにある。

     

    5)研究組織 

     

    FRに移行どきの研究参画者は18人であり、研究員3名が加わり、21人となった。その後、ジブチを調査対象国とする準備のため、島田、浅倉の2名を加えた。砂漠化や熱帯林の破壊、農業による荒廃地の出現といった環境問題に対して、都市と農村の有機物循環に着目するのは、これまでにない視点である。なるべくメンバー間の共通理解を進めるため、あえて専門性や調査国によって班分けをせず、研究者が各地域の都市、および農村の現状について共通認識をもって研究を進めていく。日本とアフリカ各国の都市における有機性ごみの現状把握と資源化にむけた社会実装を実現しうるチーム構成となっている。


     

     

     

     

    本年度の課題と成果

     

    2.本年度までの進捗 

    本欄には、研究プロジェクトの本年度までの進捗について、その課題と成果を含め具体的かつ明確に記載してください。必要に応じ、「別紙2 本年度の主要業績リスト」の該当番号を示してください。

    1)研究プロジェクト全体のこれまでの進捗

    本プロジェクトの目標である、都市と農村の有機物循環システムの構築を進めるため、(1)日本では都市の家庭におけるコンポストづくりの普及、(2)アフリカの調査対象国では都市の特性におうじた、有機性ごみを材料とした生業基盤の強化およびビジネス化のパイロット事業に着手した。

    1)日本(とくに京都を中心として)

    本年度、日本では簡単に入手できる資材、そして簡便な方法で生ごみを処理し、コンポストを作ることができるドライ・コンポストの方法・原理を明らかにし、マニュアルづくりを進めて、その普及に取り組んだ。名称は、地球研コンポスト(ドライ・コンポスト型)とした。 https://organic-rihn.chikyu.ac.jp/recipe/

    ・本プロジェクトのウェブサイトにドライ・コンポストの作り方を掲載し、準備するもの、手順、分解するもの/しにくいもの、コンポストの熟成と利用、解説として分解メカニズムを掲載や、幅広い利用方法を示した。コンポストづくりの方法は、有効菌(分解促進剤)、電気乾燥式、ダンボール・コンポスト、キエーロなど多くの方法があるが、地球研コンポスト(ドライ・コンポスト型)の特徴は、土に米ぬか、鶏糞を混ぜて、1週間のあいだ放置しておき、糸状菌の増加による活発な発酵によって、5560℃の発酵熱を発生させ、渇水と飢餓状態をつくることにある。その後、生ごみを入れることによって、微生物による急速な分解活動を促し、生ごみを処理する。悪臭や小バエなど、コンポストが失敗する原因としては水の入れすぎが主で、嫌気性環境をつくってしまうことにあり、水をまったく入れず、生ごみに含まれる水分と、それに加えて分解過程で生まれる水分を利用し、生ゴミの分解を進める。広く購読されている『現代農業12月号』で、ドライ・コンポストの作り方や原理を解説した(業績21)。

    ・ドライ・コンポストを使って、大山PLを含めてプロジェクト・メンバーが京都府下の小学校において総合的な学習の授業を提供している。この授業は京都府教育委員会の連携事業の一環であり、昨年度からの継続である。2024531日から712日にかけて塩谷暁代サブリーダーと青池歌子研究員が毎週金曜日に小学校へ通って、井手町立小学校5年生23クラス(井手小学校2クラス27人、多賀小学校1クラス15人)、今年度からやまぶき支援学校(高校1年から3年生、33人)を対象に授業を提供した。927日から118日にかけて、大山PLと野田健太郎研究員、前畑晃也研究員の3人が宇治田原小学校26年生(田原小学校1クラス31人、宇治田原小学校1クラス31人)を対象として、総合的な学習を担当し、ドライ・コンポストの実技と、気温・資材温度、投入する給食食べ残しの種類と量、コンポストのにおい、土壌の色の変化を記録した。

    小学生には1台ずつタブレットが配布されており、写真の撮影や温度の入力、においや資材の変化など、気づいたことを記録し、タブレットの優れた活用事例ともなっている。給食の食べ残しを材料とすることでフードロスの問題を説明したり、生ごみの有効活用と、その手段としてのコンポストの重要性を伝えている。作ったコンポストは、中庭の菜園に施用し、井手町立小学校2校では今年、きゅうりをはじめ夏野菜がよく育ったという話を聞いている。次年度も、この事業を継続する予定である。

    ・小学校の授業提供の取り組みについては、文部科学省のXにおいて「ミチミル科学技術の世界」として紹介された(202494日、業績136)ほか、洛タイ新報「給食食材の生ごみを肥料に」(2023128日、業績102)、「食品ごみで肥やし作り」(202466日、業績106)、京都新聞「生ごみ堆肥化 児童挑戦」(2024618日、業績108)として取り組みが掲載された。そのほか、「簡単に作れるコンポストー微生物で生ごみが肥料に」として日本海新聞や山陰中央新報、静岡新聞、琉球新聞などの子ども新聞(84日、業績105)で、夏休みの課題学習の題材として掲載されている。

    ・ドライ・コンポストは、京都市内の大型ホテル、ウェスティン都ホテルにおいて、昨年度から引き続き、2024年度も継続している。プロジェクト・メンバーが担当を決めて、毎週火・木曜にホテルへ通い、毎回15kgほどの食品残さを譲り受け、コンポストを作りつづけ、メンバーがコンポストの知識・技能を涵養する場ともなっている。食材の搬入やリネン(ベッドシーツなど)の搬出口でもあるため、においや害虫の発生には十分に注意している。ウェスティン都ホテルでは、われわれが作成したコンポスト500kgを近隣の農業生産者―城陽市のいちじく生産者や精華町のいちご生産者に配布し、生産者はコンポストを施用して農産物を生産する。その生産物をホテルが買い取って、調理をし、お客様にいちじく・タルトなどを提供するという循環が形成されている。イチジク生産者からは、老木がよみがえり、猛暑のなか結実したという話を聞くことができ、コンポストを提供した成果が上がりはじめている。ウェスティン都ホテル京都の脱炭素・循環化社会実現の取り組みとして、都ホテルズ&リゾーツのウェブサイトで紹介されている(業績122123)ほか、京都新聞「ドライコンポストの挑戦 食べ残しを土へ 巡る食」として紹介され、京都とその周辺地域でひろく読まれ、知名度がアップした(業績107)。

    ・本プロジェクトでも、ドライ・コンポストづくりの動画をyoutubeにアップすることを進めている。大山PLが滋賀グリーン活動ネットワークで講演した(業績36)のがきっかけで、JA近江のyoutubeチャンネルでは「コンポスト作ってみた!お手軽カンタン!!」としてドライ・コンポストが紹介されている(業績118)。

    ・ドライ・コンポストを素材に、京都市動物園では共同研究員の山梨裕美さんがミニボトルを使った環境教育の素材を開発している。動物園における博物館実習の学生を対象として、500mlの容器を使って、動物園で飼育されている糞を入れて、ハクサイなどの野菜くずの分解を観察する、実験系を組み立ている(業績23)。動物園での環境教育に応用が可能である。

    ・本プロジェクトの趣旨や活動、目標がメディアやプロジェクトのSNSやホームページを通じて理解が深まるにつれて、多くの講演や協業の依頼が届くようになり、手応えを感じている(業績30-31, 35-37, 42, 44-45)ほか、地球研オープンハウスでも、コンポストの説明を聞くことを目的とした人が増えてきたという実感をもっている(業績43)。

    ・そのほか、日本、アフリカにおける有機性ごみの活用を通じたネットワークづくりに努めてきた。野田健太郎研究員は、左京区の法然院と大原地区の有機農家とを結びつけ、コミュニティ・コンポストのネットワークを形成しようとしている。法然院を起点とし、都市の住民と農村部をネットワークでつなげ、京都コミュニティ・コンポストと称し、運営体制を整備する予定としている。

    (2)アフリカ諸国での取り組み

    21)ニジェール(首都ニアメ):ニジェールでは、2023年の政変(クーデター)発生以降、プロジェクト・メンバーが渡航できない状態が続いているが、JICA(国際協力機構)草の根技術協力事業の終了にあたり、ニジェール環境省が主催して88日に最終成果報告会が開催され、緑化マニュアルが検討された。3年間で10.8ヘクタール、1344トンのゴミを運搬し、緑化に供した。202410月から11月に環境省およびプロジェクト・スタッフが共同で植生・土壌調査を実施し、12月には環境省の専門家による現地視察とワークショップが開催されて、政府が認定する正式な緑化方法とすべく議論される予定である。

    22)ザンビア(首都ルサカ、南部州チョマ県):ザンビアでは、首都ルサカと南部チョマ県で研究活動をしている。首都ルサカでは、レストランやマーケットから出てくる食品ゴミを譲り受けて養豚をおこなっており、養豚舎には15頭のブタを飼育している。日々、排出される豚ぷんはドライ・コンポストで処理し、悪臭や汚水をださずに処理し、コンポストは主食であるトウモロコシ生産に使用する予定である。11月中旬から降雨があり、耕起作業とトウモロコシの実験圃場の整備を進めている。荒廃した耕作地を修復するモデルになるのではないかと期待している。南部州チョマ県ではザンビア大学地理学教室の共同研究者とともにッフィールドワークを開始し、県知事と都市の有機性ごみの活用にむけた協議を進めている。

    23)ガーナ(首都アクラ、商業都市クマシ): ガーナでは、首都アクラと商業都市クマシにおいて研究拠点の形成に力を入れている。都市の有機性ごみをコンポストにし、オーガニック・カカオを栽培することで、高い付加価値をもつ農産品のフェアトレードをめざす予定としている。

    24)ウガンダ(首都カンパラ、地方都市マシンディ):ウガンダではチャンボコ大学との共同研究の体制がつくられ、農村部におけるポストハーベストにおけるフードロス、および首都カンパラのマーケットにおけるフードロスの状況を調査する予定としている。また、西部のマシンディは原油掘削で発展中の地方都市であるが、この都市に研究拠点を設置し、都市の有機性ごみを材料にコンポストをつくることで、森林を開墾した畑の生産性を回復し、持続ある農業のあり方を検討する予定としている。

    2)研究目的、手法、組織体制の変更・見直し(該当の場合のみ)

    共同研究員の小坂さんと中村さんからの申し出があり、本プロジェクトの趣旨にそった現地調査の実現可能性がきわめて低くなったこともあって、松田素二PDと相談のうえ、来年度から調査対象国として東南アジア2ヵ国(マレーシアとラオス)を外すことにし、変わって東アフリカのジブチ(首都ジブチ)を加える準備を進めている。極乾燥地域のジブチでは、大山PL2019年より実験圃場を建設し、下水の処理水を使用したナツメヤシや牧草の生産、およびオクラやトマト、ナスなどの栽培実験を継続しており、本プロジェクトで研究を開始する環境は整っている。


    3.本年度の成果と課題および自己診断 

     

    本欄には、以下を具体的かつ明確に記載してください。

    1)本年度の成果

     

    FR1年目として、研究組織・体制づくりに取り組みながら、大山PLをはじめメンバーは講演やポスター・作品の展示を中心に積極的な成果の発信に取り組み、社会の多方面から多くの反響を得ることができた。物価高や米不足、化学肥料の品薄といった社会のニーズをとらえて、予想以上の成果を上げることができたという手応えを感じている。 昨年度の課題としていた、「ドライ・コンポスト」のマニュアルを作成し、提案することで、幅広いプロジェクト活動を展開することが可能となった。上記の「2.本年度までの進捗」で記載した項目以外で、重複しないよう、以下、箇条書きとなるが、活動およびその成果を説明したい。

     

    ・コンポストは住まい方、家族構成、食生活の内容、ゴミの排出量によってやり方が異なり、マンションや一軒家のほか、家庭菜園や農地の有無によっても、そのやり方は異なる。有機性ごみを材料としたコンポストを農業生産者に提供する場合、その出所や組成といったトレーサビリティが問われることが多く、傾向として、排出者と利用者の人どうしが顔のみえる関係になると不安感が軽減される。ホテルの食品残さなど、出所がわかる方が扱いやすいことも明らかとなった。農業生産者にはドライ・コンポストの土壌や米ぬか、鶏ふんをご自身で準備してもらうことにしており、そこにウェスティンの食品残さを投入することで、コンポストのトレーサビリティを確保している。

     

    ・すべてのプロジェクト・メンバーが参加するかたちで、5月下旬に2度にわたりオンライン研究会を開催し、大山PLが昨年度の研究成果、2024年度のプロジェクトの活動方針について説明し、研究の方向性に関する共有理解をうながした。また、720日から21日にかけて12日で、地球研・講演室において研究会を実施し、メンバーが研究成果と研究計画を発表し、討議した。

     

    ・奇数月の第一金曜日12:1513:15に、有機物循環プロジェクト公開セミナーをオンラインで開催することにし、20249月に第1回を開催した。第1回のスピーカーは大山PLで、タイトルは「プロジェクトがめざすこと」(業績38)、第2回のスピーカーは塩谷サブリーダーで、タイトルは「ウガンダの都市農業からみた有機物循環とプロジェクトの取り組み」であった(業績50)。30分の発表、25分の質疑応答のあと、プロジェクト活動の広報を5分ほどの時間をとっている。共同研究員や地球研の構成員、一般の視聴者にむけたセミナーである。20251月以降も、継続する予定としている。スピーカーには共同研究員のほか、各界からも招へいする予定である。

     

    ・ザンビアではザンビア大学との機関間学術交流協定を締結することができ、20248月には地理学教室のスタッフとともにチョマ県で共同調査を実施した。12月にDr.Membeleをウガンダ・カンパラの国際会議に招へいし、共同発表をする予定としている。

     

    ・ウガンダではチャンボコ大学と学術交流協定を締結し、ウガンダにおけるフードロスに関する共同研究を推進する体制づくりができた。

     

    ・ダイキン工業からの研究助成を受けて、京都大学が準備した経営コンサルティング会社からのアドバイスを受け、本プロジェクトの趣旨でベンチャー企業の設立ができるのか、本格的な社会実装への道筋とその課題を検討している。

     

    ・京都大学アカデミックデイ(2024921日、ゼスト御池)に本プロジェクトが地球研コンポストを出展し、野田健太郎、青池歌子の2名が会場に立ち、多くの来場者に対して説明をおこなった(業績52)。

     

    ・本プロジェクトは広報室との連携を重視しており、地球研オープンハウス(113日開催)の企画展示はもちろんのこと、23日の京都環境フェスティバルへの出展協力(担当 竹腰さん)、830日開催の科学技術広報研究会(JACST)のメディア向け合同プレゼンテーションに対する資料・スライド作成(担当 柴田さん)、京都市青少年センター 未来のサイエンティスト養成事業 秋冬講座 探求コースの出講(担当 竹腰さん)をしている(業績44)。マスメディアとの取り次ぎも積極的にしていただいている。

     

    ・金沢21世紀美術館において開催されている「すべてのものとダンスを踊ってー共感のエコロジー展」で、アーティスト保良雄さん、キュレーターの本橋仁さんとともに作品3点を展示している。シャツと腰布を食べるシロアリ(ジブチ)、プラスチック・サンダルを食べるシロアリ(ニジェール)、そして「コンポスト・ハウス」である。シロアリが人間のつくりあげた生態系にすみつき、シャツや腰布だけでなく、分解が困難と考えられるプラスチック・サンダルの食痕を展示し、科学者の観察にもとづく発見とアーティストの共感がモチーフとなっている。また、「コンポスト・ハウス」の展示では、ドライ・コンポストによるホテルの食品残さの分解とそこで発生する発酵熱により、寒さの厳しい金沢でバナナを越冬できるのか、目には見えない微生物の発酵によって、人間のつくりあげたシステムの不可視性と脆弱性を示している。

     

    ・中学、高等学校の社会科「地理」の教科書では、ニジェールにおける都市ごみを使った緑化の取り組みが紹介されており、過半の中学生と高校生が目にしていることになる(業績15)。環境修復に対する有機性ごみの有用性の理解につながっている。

     

    ・インスタグラムやYouTubeなどのSNSにおいて、ニジェールの都市ゴミを使った緑化の取り組みが紹介されており、1000万回以上の視聴回数がある。新聞取材やラジオ・テレビの出演依頼もときおり来るようになり、大山PLFMJ-waveに出演した(業績104)。

     

    ・プロジェクトに関わる地球研メンバー5人(大山、塩谷、野田、青池、前畑)で1か月に2回のペースで勉強会を開催し、プロジェクトの進捗状況の確認、関連する図書・論文の読み合わせを継続し、情報の共有と意見の交換をおこなっている。

     

    ・共同研究員の原田英典はJST/JICAの地球規模課題対応国際科学技術協力事業(SATREPS)の「下痢リスク可視化によるアフリカ都市周縁地域の参加型水・衛生計画と水・衛生統計」のプロジェクトを立ち上げ、ザンビアの首都ルサカを対象として、水・排水・汚泥・有機性廃棄物に注目したマテリアル・フローモデルの構築のためデータ収集を開始している(業績130-131)。

     

    ・ プロジェクト・メンバーのなかで、サブリーダーの塩谷暁代と研究員の野田健太郎はコンポストの知識・技能を身につけるために、20244月から11月にかけて、京都府和束町のわづカルチャー和束堆肥の会が主催するコンポスト学校に通って修了した。コンポストの基本原理や材料の選定、切り返しの技能、一次処理と二次処理の考え方を身につけて、プロジェクトの今後の進展に貢献してくれるだろうと期待している(業績125)。

     

    ・松田プログラムの定例会が1か月に1度のペースで開催されており、大山PLや代理でプロジェクト研究員がプロジェクトの進捗状況を報告したり、松田PDや渡邊PL、本郷PLとの情報共有をしたりなど、連携関係を強化している。

     

    2)目標以上の成果を挙げたと評価出来る点

     

    本研究プロジェクトの目標は、これまで顧みられることのなかった有機性ゴミをうまく活用し、生ゴミを産まない社会づくりである。FR1の段階で目標以上の成果を上げることができたのは、プロジェクト内の研究者どうし、アフリカの研究者やアシスタントとの連携、国内企業、京都市動物園、京都府教育委員会、小学校、児童とのネットワーキングにある。ここでは2点にしぼって記述しておきたい。

     

     1点目は、近年における夏季の高温、異常気象の頻発、環境問題に対する危機感もあって、市民が日常生活のなかで身近にできうる生ゴミの処理を通じ、循環型社会への移行ニーズをと持っており、そのニーズをとらえることができた点にある。これまで、科学者―とくに環境科学者は地球環境問題の現状と危険性を提示してきたが、市民・生活者に対し、どのような対応策があるのか示すことが十分できていなかった。どの国・地域においても日常生活から出てくる有機性ゴミを素材として、コンポストによる堆肥づくり、そして、その有用性を示した点は重要だと考えている。日本では、日常生活や産業活動から出てくる有機性ごみの処理に対して、強い関心がある。

     

     2点目は、アフリカにおいて都市の有機性ごみの処理とともに、砂漠化した荒廃地の修復に対する強い社会的ニーズがある。ザンビアやウガンダ、ガーナでは長年の化学肥料、除草剤や抗菌剤など農薬の使用があり、荒廃地が広がっている。ニジェールでは都市のごみを一括して荒廃地に投入し、シロアリの生物活動によって緑化を進めている。ザンビアとウガンダでは有機性ゴミを餌とした養豚と豚ぷんのコンポスト処理によるトウモロコシ生産、ガーナでは有機性ゴミによるカカオの有機栽培をめざしている。アフリカの高所得者層のなかには、安全な食料を求め、化学肥料や農薬を使用しない有機栽培の農産物を求める傾向にあり、有機栽培によって高い付加価値をもつ農産物の生産をめざしている。調査対象国の社会的ニーズをとらえ、長年にわたる信頼関係にもとづき、研究拠点を形成できた。

     

    3)目標に達しなかったと評価すべき点

     

    1年目の目標をおおむねクリアーすることができたと考えている。ただ、昨今の食品や化学肥料をはじめとする物価高、増え続ける廃棄物に対する危機意識の醸成などもあって、講演の依頼や、新聞の取材、ラジオ出演の対応に追われた。これらの報道による反響は大きかった。オーガニック食品販売会社や弁当食品メーカー、お茶をつくる飲料メーカー、有機農業の農業法人、セロファン取り扱い企業など各界からオファーがあったが、十分に対応することができなかった。

     

    4)実践プログラムへの貢献について特筆すべき成果・課題

     

     松田プログラム「科学と在来知との接合による総合的な環境文化の創成」では、地球環境問題の解決に資する研究のなかに、文化の視点を導入することで、人びとの行動や価値観の変容までを射程に入れて、その過程を検討することにある。本プロジェクトでは、京都、ザンビアやニジェール、ガーナ、ウガンダにおいて、農業生産の低下、荒廃地の拡大、砂漠化や熱帯林の減少に対して、現地の人びとがどのように、その現象をとらえ、対応しようとしているのか現状把握を重視しながら、都市のホテルやレストラン、酒造業、造園業、農家、養豚業など、さまざまな業種を結びつけ、具体的に地域の環境問題に取り組もうとするところに特筆すべき、実践プログラムへの大きな貢献がある。有機性ごみの活用やコンポストに対する知識・技能ついては、民族や地域で一括して把握することは困難であり、個人差が大きく、日々の生活のなかでは沈黙するかたちで保持されていることもある。こうした個人の知識・技能は、一般性をもたず、科学の対象になりえなかったが、個人の在来知やネットワークに焦点をあて環境問題の解決に導こうとしているところに特徴がある。

     


     

     

    今後の課題

     

    来年度の研究計画 

     

    図、表等を適宜使用し来年度の研究計画を記載し、記載しきれない図や表については項番8に記載してください。

     

     来年度はFR2年目である。1年目に取り組んできた研究拠点を活用して、有機性ごみの活用方法と緑化、農業利用のパイロット実験に重点をおく予定にしている。

     

     ニジェールで20237月にクーデターが発生した後、政情が不安定であり、治安情報の収集に努めるとともに、リモートによる現地スタッフによるデータ収集を計画している。政情が好転し、外務省の安全情報がレベル2に下がった場合には、大山PLが治安状況を確認し、現地のカウンターパートと情報交換するために、短期間の渡航を予定している。ニジェール環境省との関係は良好であり、研究拠点も維持しており、いつでも現地調査を再開できる環境にある。

     

     ザンビアでは原田と原、大山、青池、野田の5人が主な調査対象国としている。原田はJICA/JST SATREPSのプロジェクトを開始しており、本プロジェクトと連携する。原は首都ルサカ、および北西部州ムフンブウェ県で調査しており、2023年度に建設した実験圃場の観察を計画している。カウンターパートはザンビア大学経済・社会研究所、および地理・環境科学学科であり、地球研とは機関間学術交流協定を締結している。ルサカでは有機性ごみを餌とした養豚と豚ぷんを利用したトウモロコシ栽培、その収量調査と土壌改善の効果を検証する。南部州のチョマ県では新規に研究拠点を形成し、有機性ごみによる土壌改善と、干ばつに対する農業改善の対策を検証する。

     

      ウガンダでは塩谷と中澤、大山の3人が主な調査対象国としている。チャンボコ大学との学術交流協定の締結にもとづき、農村での作物栽培から首都カンパラの消費者まで、各プロセスにおけるフードロスの問題について共同研究を実施する予定にしている。ウガンダでは都市部で女性の肥満が問題となっており、レストランにおいても大量の主食が提供され、消費者は食べきれずに捨てているのが現状であり、フードロスの実態を解明するのは重要である。また、ウガンダではポークジョイントと呼ばれるブタ肉を食べる都市文化が根づいており、都市でブタ肉を生産する予定にしている。西部のマシンディ県の県庁所在地マシンディにおいて実験圃場を建設し、養豚やコンポストのパイロット実験を開始する予定にしている。

     

     ガーナでは桐越と牛久、大山の3人が調査を継続している。桐越は森林帯とサバンナ帯に5m四方の実験圃場をつくり、地域の生活ごみを投入し、どのような植物が生育してくるのかを観察している。同様の実験は、ザンビアでも開始しており、生育する植物の種と重量を比較したいと考えている。Anderson(1952)Abbo et al. (2005)は農業の起源としての“Dump-heap hypothesis(ゴミの野積み理論)を提唱しており、住民が生活するゴミの蓄積により生育する植物種の変化を明らかにする予定である。アクラとクマシにおいて実験圃場を建設して、有機性ごみを材料としたコンポストや養豚と組み合わせたオーガニック・カカオの栽培実験をおこなう予定にしている。

     

     ジブチでは、首都ジブチに敷設されている下水道を通じて下水が処理場に流れてきて、処理がおこなわれている。下水処理場に隣接するかたちで、農場が建設されており、1ヘクタール(100m四方)の実験圃場がある。東京農大のSATEPSプロジェクトが20253月に満期終了することもあって、ジブチ農業省のはからいで、実験圃場の運営を継続することが可能となっている。ジブチは年間降水量140mmほどの熱帯極乾燥の環境にあり、水が農業の強い制約条件となっている。下水処理水を灌漑に使用することで、2020年よりナツメヤシ30本を栽培しつづけている。強い日射、高温、乾燥という厳しい環境のもとにあるが、下水処理水を灌漑に使用したアグロ・パストラルシステムの構築をめざしている。

     

     各国の実験圃場には、気象観測装置(雨量、温・湿度)を設置する予定にしており、自動計測・記録をする。また、有機性ごみの放置、あるいは農業利用におけるCO2CH4の放出をチャンバー法で計測するため、CO2CH4のセンサーを購入し、現地観測に使用する予定としている。

     

     日本では、京都を中心に研究活動を展開する予定にしている。京都市内のホテルにおいて、レストランから排出される食材ごみを使ってドライ・コンポストによる堆肥づくりを継続し、農業生産者との有機物の循環づくりに取り組み、農産物やホテルのブランディングに寄与し、人のみえる形での社会資本の形成に貢献する。府内の小学校におけるコンポスト授業の提供は5校(特別支援学校)を維持し、小学校教諭や京都府教育委員会の協力を得ながら、小学校の総合的な学習の授業としてのマニュアルづくりを進め、府内小学校で授業を普及できないか検討する。京都市動物園ではミニコンポスト実験を継続し、環境教育法の開発・確立につなげる。第三者機関による化学性と生物性、そして有害重金属の分析を委託し、デザイナーやプロモーターとともに商品化の可能性をさぐる。

     

     20251110日から12日にかけて、東京国際交流館プラザ平成を会場に第16回 砂漠技術(DT)国際会議が開催されることになっており、そこでセッションを組む予定にしている。また、20266月には、日本沙漠学会の年次大会を地球研で開催する方向で学会理事会から打診されており、受諾する方向で、2025年度からその準備にも取り組む予定としている。5月と7月の研究会の開催、奇数月第一金曜日の有機物循環 公開セミナー(全6回)、月2回の地球研における勉強会は開催する予定としている。

     

    本プロジェクトのホームページやSNSで積極的に活動を発信するほか、新聞やテレビ、ラジオなどメディアを通じて情報発信に取り組む予定である。事業化の可能性をさぐることについては、京都大学xダイキン工業包括連携運営事務局のアドバイスを受ける予定としており、京都大学 成長戦略本部の段取りにより日本総研のコンサルティングを受けることになっている。もし、うまくいくことがあれば、社会実装(ビジネス化、教育の継続)を進めて、地球研発のベンチャー企業の設立も視野に入れたいという希望もある。

     

     

     

    来年度以降への課題 

     

    ① これまでの研究の遂行からプロジェクトとして得られた、あるいは直面した課題と、その解決策を具体的に述べてください。

    ② プロジェクト研究に対する研究所の支援体制について特に課題となるものがあれば述べてください。

     

        これまでの研究の遂行からプロジェクトとして得られた、あるいは直面した課題と、その解決策を具体的に述べてください。

     

    本プロジェクトの主眼としている、都市の有機性ごみの農業利用や生態系の修復というアイディアは、これまでに学術界ではフォーカスが当てられてこなかったこともあり、とくにフィールド・サイエンスの研究者にとっては着手しにくいテーマであり、地球研のメンバーが研究を先導してきた。FSPR2年間では共同研究者の巻き込み方には工夫が必要であると感じてきたが、オンラインと対面の研究会、公開セミナーの実施を繰り返すことで、研究プロジェクトとして問題意識を共有できるようになってきた。

     

    新聞の掲載や講演の反響として、お茶飲料メーカーの伊藤園、食品商社の双日、弁当・仕出しの角井食品、オーガニック食品の専門店ヘルスライフなどからオファーをいただいたが、十分な対応をすることができなかった。労力と時間の制約のあるなかで、プロジェクトの根幹にとって大事なものを見極めながら、研究活動を進めていきたいと考えている。

     

        プロジェクト研究に対する研究所の支援体制について特に課題となるものがあれば述べてください。

     

    特段、感じることはありません。ただ、地球研と京都大学が近いとはいえ、思った以上にクロスアポイントメントによるプロジェクト運営やペーパーワークの労力が大きく、細かく業務に十分、対応できていないのは問題だと思っている。出張や兼業の手続き、e-learningの重複などは、なんとかならないのかと思います。なかなか時間と労力の制約が強いのですが、他プロジェクトとの連携や協業など有意義な関係性がどのようにつくれるのか、努力したいと思っています。また、研究員や研究支援員の勤務体制が、裁量労働制であっても、強く勤務時間にしばられているようにも感じており、PLにそのしわ寄せがきているような気もしています。

     

    研究企画係や財務企画係、調達係、広報室をはじめとする職員のみなさんのご尽力には、感謝しています。日ごろ、松田素二PDには、有意義なコメントをもらっており、そのアドバイスはプロジェクト運営に活用させていただいています。

     

     

     

共同研究者情報

共同研究者(所属・役職・研究分担事項)

  • リーダー, 大山 修一, 総合地球環境学研究所 都市と農村の有機物循環プロジェクト, 教授, プロジェクト運営全般
  • 中野 智子, 中央大学 経済学部, 教授, 炭素交換の測定・解析
  • 小坂 康之, 京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授, ラオスの耕地生態系分析
  • 土屋 雄一郎, 京都教育大学 教育学部, 教授, 廃棄物問題
  • 島田 沢彦, 東京農業大学 地域環境科学部, 教授, バイオマス資源の物質循環に関する現状分析
  • 原田 英典, 京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授, 下水・し尿管理
  • 阪本 拓人, 東京大学 大学院総合文化研究科, 教授, データ分析とシミュレーション
  • 矢部 直人, 東京都立大学 都市環境学部地理環境学科, 准教授, 仮想栄養分の分析
  • 牛久 晴香, 北海学園大学 経済学部, 准教授, 地域経済
  • 桐越 仁美, 国士舘大学 文学部, 准教授, 農村研究
  • 伊藤 豊, 島根県立大学 地域政策学部, 准教授, バイオマス資源の物質循環に関する現状分析
  • 原 将也, 神戸大学 大学院人間発達環境学研究科, 助教, 農業生産
  • 鈴木 香奈子, 信州大学 農学部, 助教, 栽培学、土壌学
  • 中尾 世治, 京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科, 准教授, 国境を超えたモノの移動
  • 中澤 芽衣, 摂南大学 現代社会学部, 助教, 廃棄物利用と処理
  • 中村 亮介, 京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教, 物質循環の研究推進
  • 齋藤 美保, 京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科, 助教, 動物行動生態学
  • 山梨 裕美, 京都市動物園 京都市動物園 生き物・学び・研究センター, 主席研究員, 動物の⾷性とウェルフェア
  • 浅倉 康裕, 東京農業大学 国際食料情報学部, 特別研究員, バイオマス資源の物質循環に関する現状分析
  • サブリーダー, 塩谷 暁代, 京都大学 大学院アジア・アフリカ地域研究研究科, 特定助教, 地域研究、人類学、都市-農村間流通研究
  • SEERA Georgina, 京都大学 アフリカ地域研究資料センター, 特任研究員, 人間の栄養
  • 前畑 晃也, 総合地球環境学研究所 都市と農村の有機物循環プロジェクト, 研究員, 地域研究、生態学
  • 野田 健太郎, 総合地球環境学研究所 都市と農村の有機物循環プロジェクト, 研究員, 地域研究、生態人類学
  • 青池 歌子, 総合地球環境学研究所 都市と農村の有機物循環プロジェクト, 研究員, 地域研究、廃棄物管理
  • 中出 道子, 総合地球環境学研究所 都市と農村の有機物循環プロジェクト, 推進員


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