| プロジェクト区分 | フルリサーチ(FR) |
| 期間 | 2024年04月 - 2029年03月 |
| プログラム | 実践プログラム 環境文化創成プログラム |
| プロジェクト番号 | 14210162 |
| 研究プロジェクト | 都市―農村の有機物循環とそのシステム構築に関する実践研究 ―地域の価値観と科学的知見の融合をめざして― |
| プロジェクト略称 | 有機物循環プロジェクト |
| プロジェクトリーダー | 大山 修一 |
| URL | https://organic-rihn.chikyu.ac.jp/ |
| キーワード | 物質循環、廃棄物処理、⽣業システム、農業利⽤、緑化、⽔・衛⽣、環境修復 |
研究目的と内容
1.研究プロジェクトの全体像
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本欄には、以下を具体的かつ明確に記載してください。 |
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1)目的と背景 |
本研究プロジェクトの目的は、都市に蓄積した有機性ごみとその栄養分を農村へ還元し、農牧業を中心とする生業基盤の修復や荒廃地のリハビリテーションに結びつけることで、地球上の都市と農村のあいだのバイオマス循環システムを構築することにある。生態学においてバイオマスは現存量といわれ、植物や動物などの重量を指すが、バイオマス資源は食料や衣料、工業製品の原料となる農産物、建築用材や燃料となる木材、あるいはバイオエタノールやバイオディーゼルといった燃料となる資源作物が含まれる。これらのバイオマス資源は食料や衣料、燃料、建材に使用されるとともに、使用されたのち食品系廃棄物、し尿や下水汚泥、木質系廃棄物といったかたちで排出される。
世界各国ではCO2をはじめとする温室効果ガスの排出をゼロとする脱炭素化やカーボンニュートラル社会への移行が求められているが、国・地域によって食料問題や貧困の解決、資源開発、経済成長などの問題が複雑に絡み、その対応は容易ではない。本研究計画では、日本とアフリカ各国における経済・社会システムの現状をふまえたうえで、カーボンニュートラル社会への移行には燃焼からの脱却が必要であると考え、廃棄物の焼却処分から分解による処理プロセスへの移行をすすめ、荒廃地や生業基盤の修復、農業生産性の維持にむけたバイオマス資源の利用促進に貢献する。
各地域(日本、アフリカ5か国、ニジェールとザンビア、ガーナ、ウガンダ、ジブチ)における経済状況や食料事情、有機性廃棄物に対するローカルな価値観とその利用実態を調査するとともに、環境・生態的な持続性、経済的な持続性、保健・衛生的な持続性の観点から科学的な検討をくわえ、都市と農村における有機物循環システムの構築にむけて、有機性廃棄物の有用性に対する新しい価値観の創出と持続的な社会づくりをめざす。
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2)地球環境問題の解決にどう資する研究なのか |
地球における土壌の厚さには気候帯、および土地利用によりバリエーションがあるが、土壌資源には限りがある。地球上の人口は2050年に100億以上になることも予想されているが、人類は限られた土壌で食料を生産し、生存していかねばならない。農牧業による土地の酷使や土壌侵食もあり、食料の生産が需要に追いつかないことが危惧されている(FAO 2019)。人類が口にする食料は清浄である必要があり、捨てる有機性ゴミやし尿はその汚穢によって忌み嫌われる。人類は哀しいことに、科学にもとづき築き上げてきた衛生観念のドグマによって、うまく地球システムのなかにみずからの存在を位置づけることができていないのが実情である。今後の都市を中心とする文明が持続性を獲得するためには、清浄から汚穢を生み出す人間の性(さが)を受け入れ、その汚穢から清浄を生み出す、物質循環と生命の生まれ変わりの重要性を理解し、地球システムから分離した人類の存在を地球システムのなかに位置づける思考・価値観の転換が必要である(大山 2015)。
イギリスやアメリカでは、下水処理が施されたあとの下水汚泥はsewage sludgeと呼ばず、バイオソリッド(biosolid)という名称がつけられて農業利用が進められている。日本とアフリカにおいて、各地の農耕システムにおける農業生態系、国・地域およびグローバルにおける物質循環という重層的なスケールを組み合わせ、有機性廃棄物の有価値化とわれわれの意識の変革を通じて都市と農村とのあいだの有機物循環の構築に取り組み、現代の都市社会の変革と確かな持続性に寄与したい。
本研究プロジェクトでは、日本とアフリカ(ニジェールとザンビア、ガーナ、ウガンダ、ジブチ)を主な対象としている。有機物循環の現状や循環システムの構築を検討するときには、(1)生産の単位となる世帯や農村の耕作地、(2)都市や流域を単位とした地域、(3)輸出入の単位となる国家、そして(4)グローバルの各レベルを統合して考えていく必要があり、地域・時代の政治・経済システムとあわせて、持続的な社会づくりをめざす。
研究項目は、【1】耕地や農村、地域、世界をめぐる有機物資源の物質循環にかかる現状分析、【2】有機性廃棄物の分解メカニズムの解明と安全性の検証、【3】有機物循環の構築にむけた新しいネットワークと価値観の創出である。日本とアフリカ5か国において独立した研究班を組織するのではなく、農村と都市の生産や消費、廃棄から有機物の循環を検証するため、農村と都市の両者をつなぐ有機物の循環を分析する。都市の経済社会状況に応じ、各地域で求められる有機物循環のあり方は異なり、地域およびグローバルの視点でグッド・プラクティスとなる有機物循環システムを目に見えるかたちで構築する。
【1】有機物資源の物質循環にかかる現状分析
1-1 都市における廃棄物の処理と農業生態系における物質循環:日本とアフリカの都市において廃棄物の排出と処理、衛生環境を調査し、し尿・下水と、そのほかの有機性ごみに分けて、家庭における廃棄物の種類と重量、回収と処理方法について調査する。また、日本とアフリカの8地域における農業様式と耕地生態系の施肥、および都市-農村間の農産物流通の解明に取り組む。有機性廃棄物に対する意識や価値観を明らかにし、バイオマス資源の循環を進めるブレークスルーを検討する。
1-2 都市における廃棄物の処理とバイオマス資源の集積:日本では東京や大阪、京都の中心市街地におけるディスポーザーと下水処理の問題、生ゴミや下水汚泥の処理方法に着目し、分解を中心とする処理プロセスと農業利用にむけた課題を明らかにする。アフリカではゴミの分別はさほどおこなわれておらず、オープンダンピング――野積みによるゴミの埋め立てが主流であり、家庭系や下水汚泥といった有機性廃棄物の農業利用や生業基盤の修復にむけた課題と方策を検討する。コンポストの義務化を進めるアメリカやヨーロッパの事例も参照する。
1-3 農産物の輸出入をめぐる物質循環(バーチャル・ニュートリションの計算):FAOが集計する農産物の輸出入データ(FAOSTAT)などを利用し、世界196ヶ国、あるいは日本国内の都道府県を対象として、バーチャル・ニュートリション・マップ(VNP:仮想栄養地図)を作成する。VNPとは、バーチャルウオーター(VW)の考え方を援用し、本プロジェクトが独自に作成するものである。
【2】有機性廃棄物の分解メカニズムの解明と安全性の検証
2-1 有機性廃棄物の施用による緑化および作物生産力の分析:日本の水田稲作や畑作地、アフリカの畑作において家庭系廃棄物や木質系廃棄物、下水汚泥といった有機性ごみを施用する圃場実験を実施し、土壌性状の変化や作物収量の改善効果、および荒廃地における環境修復の効果を検証する。
2-2 有機性廃棄物の分解メカニズムの評価:2-1の圃場実験において、耕地土壌に対する有機性廃棄物の投入とその分解プロセス、植物によって吸収できる形態となる無機化プロセスを、気象条件とあわせて土壌の物理性と生物性、化学性に着目して検証する。また、土壌面におけるCO2フラックスを測定し、有機性廃棄物の投入と緑化にともなうCO2の排出/吸収の効果、および土壌における炭素貯留量を計測し、温室効果ガス抑制の効果を解明する。
2-3 有機性廃棄物の農業利用をめぐる安全性の検証:都市で排出される有機性廃棄物―とくに下水汚泥には鉛やカドミウム、クロムなど有害重金属が含まれる危険性があり、各地域において危険性に対する懸念は根強い。EDX(蛍光X線分析装置)による簡易検査システム、有害物質の除去および希釈の技術を開発し、有機性廃棄物の農業利用にむけて健康リスクを除去し、住民の受容性の向上をめざす。
【3】 有機物循環システムの構築にむけた新しい価値観の創出と社会づくり
都市から農村への物質移動と有機物資源の投入による荒廃地の修復や農牧業の生業基盤の改善実験を進め、各地の実情に沿った有機性廃棄物を利用した農業生産の改善と荒廃地の修復に関するマニュアルづくりに取り組む。有機性廃棄物に対する「汚い、危険、有害」といった価値観の転換と有価値化を進めるため、研究成果と住民の合意形成をベースにし、分解を基盤とする有機物循環システムの構築に必要な社会条件、住民の意識変革、および社会づくりにむけた提案をしたい。
3-1 水を使わない地球研コンポスト(ドライコンポストの技術開発):周囲で入手できる資材、簡便な方法により、台所の生ゴミを処理し、土壌に栄養分を戻すことができる地球研コンポスト(ドライコンポスト)の技術を確立する。ウェスティン都ホテル京都からの協力を受けて、有機性ゴミの処理とモニタリングを継続している。
3-2 京都市動物園で飼育されている動物糞を利用した堆肥づくりと環境教育:この地球研コンポスト(ドライコンポスト)では鶏ふんをはじめとする動物糞を利用することで、効率的に有機性ゴミを分解できる。京都市動物園で飼育されているアジアゾウやシマウマ、キリン、トラ、チンパンジー、ゴリラなどの動物糞を提供してもらい、動物糞と有機性ゴミの分解プロセスを観察している。将来的には、動物糞を利用したミニコンポストづくりと環境教育の手法を作成する。
3-4 京都府教育委員会と連携事業:地球研と京都府教育委員会との連携事業の協定にもとづき、京都府内小学校における「総合的な学習の時間」授業提供とコンポスト授業のマニュアルづくりをおこなう。京都府内の小学校と特別養護学校で総合的な学習の時間(探求型授業)の授業を提供する。
3-5 ニジェールの取り組み:ドッソ州ドゴンドッチ県、および首都ニアメにおいて、都市の有機性ごみを使用した緑化をつづけている。ドゴンドッチ県での緑化の取り組みは2003年より、ニアメ市の取り組みは2020年より開始し、現在にいたる。有機性ごみの投入にともなう土壌性状の変化、植物生育の観察、植物バイオマスの計測、現地住民に対する聞き取りをつづけている。
3-6 ザンビアの取り組み:首都ルサカにおける有機性残渣を利用した養豚と堆肥づくり(大山、青池、野田):ザンビアでは、化学肥料を使用した近代農法による土壌荒廃が深刻である。種皮を取り除いたトウモロコシを利用するため、多くの種皮部分が有機性ごみとなる。また、都市ごみを餌として養豚をおこない、その糞を利用して、レストランやマーケットからの食品ゴミを使って、地球研コンポスト(ドライコンポスト)による豚ぷんの堆肥づくりと土壌改善、トウモロコシ生産をすすめる。
3-7 ジブチの取り組み:首都ジブチ市は、年間降水量120mmの極乾燥地域に位置する砂漠の国である。下水処理場から出てくる処理水と汚泥を利用して、ナツメヤシとザクロ、スーダングラス、オクラ、メロン、トマトなどを栽培している。下水の処理水や汚泥の分析をし、その性状を明らかにするとともに、下水処理水を使用した乾燥地農業の手法を開発する。
3-8 ガーナの取り組み:東部州、および北部州で都市の食品残さをつかった養豚、豚糞を材料としたコンポストづくりをし、カカオ、アブラヤシ、プランテンバナナ、トウモロコシの栽培に取り組む。カカオ生産における化学肥料と農薬の減量をめざし、隣にある明治製菓のカカオ農場との協業を取り組んでいく。
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4)期待される成果 |
本研究計画によって期待される成果として、(1)巨大化する都市の存在と食料の輸出入が各地の生態系や物質循環にとって大きな環境負荷となっていることを可視化すること、(2)都市由来の有機性廃棄物の活用によって熱帯林の修復、砂漠化対策としての荒廃地の緑化、地域における農業生産の改善・向上に役立つことを示し、その指針・マニュアルづくり、価値観の転換を進めること、(3)有機性廃棄物を農業や緑地再生に活用するという前提に立って、われわれの生活スタイルの見直しと都市インフラ(ゴミ回収・処理、下水処理)の整備を促進し、環境危機に対応する新しい社会づくりをすることにある。
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5)研究組織 |
FR2の開始どきの研究参画者は22人であり、共同研究員3名(荒木(植物栄養学)、近藤(地域研究)、村尾(人類学))が加わって25人となった。砂漠化や熱帯林の破壊、農業による荒廃地の出現といった環境問題に対して、都市と農村の関係性、有機物循環に着目し、環境修復や自然再生をめざした社会づくりを進めていく。なるべくメンバー間の共通理解を進めるため、あえて専門性や調査国によって班分けをせず、研究者が各地域の都市、および農村の現状について共通認識をもって研究を進めていく。研究者コミュニティだけではなく、政府機関(ニジェール環境省、ジブチ農業省)、国連機関(IOM)、民間企業(株式会社近鉄・都ホテルズなど)、国内自治体、美術家などと連携関係をつくりながら、日本とアフリカ5か国8地域の都市における有機性ごみの現状把握と資源化にむけた社会実装を実現しうるチーム構成となっている。
本年度の課題と成果
2.本年度までの進捗
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本欄には、研究プロジェクトの本年度までの進捗について、その課題と成果を含め具体的かつ明確に記載してください。必要に応じ、「別紙2 前回の審査・報告会以降の主要業績リスト」の該当番号を示してください。 |
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1)研究プロジェクト全体のこれまでの進捗 |
FSからPR、FR1で開始した多くの試みが、FR2で定着し、研究基盤の形成につながっているのを実感できるようになった。京都府下小学校での授業提供、ウェスティン都ホテルでのコンポストづくりと農家への供給、京都市動物園との連携、美術家との連携・協働は、試行錯誤を繰り返しながらも、うまく進行しているように思える。イベント講演やコンポスト実演の経験を繰り返し、参加者との対話を通じて、問題の所在を理解できるようになった。複数の企業からの問いあわせや話し合いをつうじ、有機物循環プロジェクトの社会との接合点も分かるようになってきた。
有機物循環プロジェクトの目的・趣旨は、食料や化学肥料などの物価高、米の不足などの影響もあって、人々の理解を得ることができるようになってきた。また、異常気象(高温や干ばつ、多雨、洪水)に対する危機感もあって、生活者として何ができるのか、現状を変えたいという社会からの強い要請も感じている。有機物循環プロジェクトがマスメディア(テレビや新聞、雑誌など)で取り上げられることで、企業からの問いあわせも増え、すべてに対応できないものの、やりがいを感じるところでもある。ドライコンポストは農業従事者むけ雑誌『現代農業』(#71)で紹介されたが、コンポストの原理、失敗する原因を科学的に分かりやすく、解説した点で、高い評価を得て、『全国農業新聞』で再掲載される予定となっている。FR2年目で公開特許、商標権の手続きを完了したことは、従来の研究スタイルのように現状把握にとどまらず、今後の日本国内およびアフリカでの研究活動を展開するうえで基盤を形成できたと考えている。
ニジェールでは、有機性ごみの緑化がニジェール環境省によって公式の緑化方法として認められ、国連機関とニジェール政府環境省が事業に着手することで、社会実装が実現した(#209)。大山PLは、新しい社会づくりとしてワールドおもしろいアワードを受賞した(#237)。この社会実装によって、有機物循環プロジェクトがめざすべき方向性もさだまってきたようにも思う。
つぎに社会実装につなげたいのはジブチの事例だと考えている。今年度よりジブチ共和国をプロジェクトの調査対象地としたが、首都ジブチ市近郊ドゥダの圃場運営は6年目となる。極乾燥地という厳しい環境であるにもかかわらず、下水処理水を灌漑に使うことで、社会・文化的な価値の高いナツメヤシ(Daher et al. 2015)のほか、ザクロやオクラ、メロン、スイカ、ナス、トマトを栽培している。ナツメヤシは1本あたり、毎日125リットルの水が必要だとされており、大量の灌漑用水が必要である(Hami Said Ahmed and Yves Coquet 2018)。ドゥダの農場では、EUとアメリカの援助により、下水処理場から処理水が供給されている。しかし、トランプ政権によるUSAIDの解体と援助の縮小により、ソーラーシステムやポンプの故障が頻発し、処理水の供給が滞りがちである。ジブチ市内の水道水は塩分が多く、下水処理水の塩分濃度が高く、塩分集積を避ける意味でも、給水量は減らしたい。
ジブチの食料自給率は低く、住民生活のなかで出てくる有機性ごみの割合は低い。ジブチ市中心街の水道水は塩分濃度が高いこともあり、ペットボトルのミネラルウォーターが飲料水として使用される。大量のペットボトルや衣服、イスラーム礼拝用のカーペットなどが多く廃棄されることから、ペットボトルを埋め込み、ナツメヤシの根圏にちかいところで注水すること、そして、衣服やカーペットなどで地表面を覆うことで、地表面への強い日射を避け、高温になるのを防ぐとともに、土壌水分の蒸発を防ぐ効果も認められた。ペットボトルと古着の利用でナツメヤシ1本・1日あたりの潅水量は25リットルまで減らすことができ、従来研究で指摘されてきた必要量の80%を減らすことができた。この発表は、ナイル・エチオピア学会の発表省を受賞した(#238)。
ジブチの人々はもともと、ソマリやアファールといった牧畜民であり、涸れ川沿いでのわずかな農業とともに、ラクダやヤギの遊牧を主としてきた。ジブチ市近郊では都市化の進展とともに、人々の生活は大きく変容することになった。極乾燥地でどのようにして家畜を飼育できるのか、ナツメヤシの定着とともに実験を開始した。下水処理水を灌漑水として点滴灌漑をおこない、スーダングラスを栽培する。このスーダングラスを牧草に使用することで、ヤギの飼育が可能なっている。ジブチ農業省は下水の処理水と汚泥、古着やペットボトルなどの廃材を使った乾燥地農業の技術を高く評価し、ジブチだけでなく、IGAD(東アフリカ政府間開発機構)のなかで同じ気候帯に位置するスーダンと南スーダンの農業省若手職員の研修をおこないたいという提案も出てきた。
プロジェクトの活動地は日本国内(とくに京都)、アフリカ5か国8地域と広範である。それぞれに地元の人々、関係者に理解、賛同を得て、社会の実態把握とともに研究活動を進めることができている。国内では、小学校での授業提供やイベントでの環境教育、美術館での展示、ホテルでのコンポストづくりを経済に取り組んできた。さまざまなステークホルダーとの連携による超学際、もしくは社会実装という目標にむかって活動を進めてきて、やりがいを感じるとともに、深く社会に根ざし、関与する“こわさ”を感じることもある。とくに京都府教育委員会からは、プロジェクトが終了する2029年3月以降の授業提供について問われることもあり、どのように活動を継続していくのか、真剣に考える必要も感じている。
また、プロジェクトがテレビや新聞、雑誌などで取り上げられることで(#204など)、企業からの問いあわせも増え、新明和工業とは中間処理施設の建設、海岸部埋立地の緑化、自然再生の事業計画を実行に移そうと考えている。ただ、企業からの問いあわせは経営状況の変化、経営方針の変更によって計画が停止されることもあり得る。新規事業については吟味を加えたうえで、プロジェクト活動に取り入れるかを検討する予定としている。
ローカルマーケットやレストランから食品残さの回収とブタ飼養、ドライコンポストづくり、有機資材によるトウモロコシ栽培(ザンビア)、ローカルマーケットやレストランから食品残さの回収とブタ飼養、ドライコンポストづくり、有機資材による料理用バナナの栽培と世界的な脅威となっているパナマ病予防の実証実験(ウガンダ)、同じく、ローカルマーケットやレストランから食品残さの回収とブタ飼養、ドライコンポストづくり、自給用の料理用バナナ、商品作物のカカオ栽培、民間企業との協業(ガーナ)、そして、下水処理場から出てくる汚泥や処理水をつかった乾燥地農業・畜産技術の開発(ジブチ)と活動内容は多岐にわたる。FR1年目、FR2年目の2年間において実験圃場、研究環境、および研究者ネットワークの整備は完了し、現地の研究者、関係する省庁(農業省、環境省)、地元住民、関係する企業のネットワークづくりを進めているところである。
一見すると、脈絡もなく、有機物循環プロジェクトは研究活動、現地での取り組みを展開しているように思える。都市と農村における有機物循環システムを構築していく場合、都市における有機性ごみの処理の問題、および農村における環境修復や自然再生、そして農業生産の向上という両者のマッチングが重要となる。そこには、都市の住民、および農村の住民にとって利益、現金収入がもたらされることが期待されている。有機物循環プロジェクトは土壌や環境の修復、自然再生、農業生産の向上とともに、参画する人々に経済的な現金収入がもたらされることを重視している。
たとえば、日本、とくに京都市内では企業や住民の関心は毎日、出てくる有機性ごみをいかに適切に処理できるのか、コンポスト等による有機性ごみの処理に向かっており、畑への施用や農業利用にはなかなか興味が向かない。自分たちが日々、出す有機性ごみがどのように、どこで、どのように処理されているのか知らないことが多く、焼却炉でプラスチック類とともに有機性ごみが焼却されていることも知らないことが多い。焼却することによって二酸化炭素が排出されることに対して、後ろめたさや罪悪感を感じつつ、どうしようもないという気持ちをもつ人も多い。そして、農家はそれぞれに、長年の経験にもとづく施肥のレシピをもっており、有機性ごみを材料とするコンポストの利用には消極的だという事実がある。
逆に、アフリカでは、都市部における有機性ごみの適正処理よりも、農村部において、いかにして価格高騰が顕著な化学肥料の量を減らすのか、あるいは荒廃地における土壌肥沃度の向上、もしくは農業生産の改善、現金収入の増加に興味が向かう傾向にある。ローカルマーケットやレストランで野菜くずや食品残さの処理に困っていたとしても、それは野積みにされるだけである。行政が回収に来ることもあれば、来ない場合もある。それを必要とする人がいる場合には、無料で取り引きされることはなく、価値がつき、有機性ごみを起点としたバリューチェーンが形成されていくのは興味深い点である。
こうした広範囲にわたるプロジェクトの活動をどう理論化し、束ねていくのか。松田プログラム「新しい環境文化の創成」や地球研のビジョンやミッション「未来可能な地球社会の実現をめざす」とのすりあわせについては、「4.昨年度の研究審査・報告会、ERECコメントへの対応」で記載したい。
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2)研究目的、手法、組織体制の変更・見直し(該当の場合のみ) |
前年度に立案した計画どおり、共同研究者(小坂さん、中村さん)からの申し出にもとづき承諾を得たうえで、今年度から東南アジアを調査対象から外し、日本国内、およびアフリカを調査対象とすることにした。サハラ以南アフリカでは、東アフリカのジブチ共和国の首都ジブチ市を調査対象として加えた。このジブチ市においては、大山PLが2019年より圃場実験の運営を先導しており、下水処理場から排出される下水の処理水と汚泥を利用し、ジブチ農業省と連携して乾燥地農業の技術開発を進めている。これらの研究調査対象国の変更については前年度、2024年度にすでに計画していたものであり、松田素二PDから承諾を得たうえで、FR1報告書に記載しているものである。
3.本年度の成果と課題および自己診断
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本欄には、以下を具体的かつ明確に記載してください。 |
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1)本年度の成果 |
FR1に構築した企業や京都府教育委員会、小学校、地元住民との協力関係をもとに、国内とアフリカにおいて多岐にわたる多くの研究活動、取り組みを進めてきた。すべてを詳述することはできないが、以下に特徴的な研究活動、取り組みを取り出し、説明する。
1)日本での活動(とくに京都を中心として)
<公開特許、および商標権の取得手続き>
総合地球環境学研究所・共同利用係のご協力、ご指導を受けながら、ドライコンポストについて、不二特許事務所を通じて、特許庁への特許(公開)の出願を10月10日に完了した。コンポスト作成の「常識」では開始どきに生ごみを投入し、水を入れることを原則としてきたが、1週間の仕込み期間を設定し、微生物の増殖により窒素飢餓と乾燥状態を引き起こすこと、食品残さに含まれる水分と、有機物の分解どきに発生する水分を利用し、意図して水を投入しないことを請求範囲とした。また、インターネット上で第3者がドライコンポストを扱う動画やコンテンツが現れたことから、地球研コンポスト(ドライコンポスト)という商標権の出願手続きを完了した。
<アウトリーチ活動>
以下のイベントにおいて、講演、コンポストの実演、展示をおこなった。2025年11月4日から3月16日金沢21世紀美術館 特別展「共感のエコロジー展」『コンポストハウス』(美術家 保良雄との共同制作)展示、2025年2月15日金沢21世紀美術館 講演(地球研DAY 80名)、4月14日京都市動物園イベント「野生動物学のすすめ」(38名)、5月21日大阪・梅田グランフロント大阪ナレッジキャピタル SpringX(15名)、7月5日大阪万博・第3回日本国際芸術祭、2025年7月27日・8月31日 大阪・梅田グランフロント大阪ナレッジキャピタル The Lab(小学生高学年対象20名)、ほか多数(#104、108、115、130,179など)。
<京都府教育委員会との連携事業、環境教育の推進>
地球研コンポスト(ドライコンポスト)を使って、大山PLを含めプロジェクトメンバー4人(大山、塩谷、青池、野田)が京都府下の小学校において総合的な学習の授業を提供している。この授業は京都府教育委員会の連携事業の一環であり、2023年度から継続しており、本年度は3年目となる。2025年4月28日から2026年3月6日(予定)にかけて、塩谷暁代サブリーダーと青池歌子研究員が井手町立井手小学校5年生2クラス31人を対象にコンポスト授業を提供している。1学期は毎週月曜日に小学校へ通ってコンポスト作りの作業を通じて、温度やにおい、資材の変化などを観察し、タブレットを使用して記録を継続した。2学期は月1回の授業で土の機能と微生物、ごみ処理やフードロスを説明し、実習を通じて土壌が人間の生活に欠かせない重要なものであることを学べるよう授業を組み立てている。昨年、金沢21世紀美術館で展示したコンポストハウスは授業で活用すべく、井手小学校の中庭に移設し、11月7日にお披露目会が開催された。この施設内に子どもたちが作ったコンポストを入れ、菜園で野菜や草花を育てる計画である。
京都府宇治田原町の小学校2校において、大山PLと野田健太郎研究員がコンポスト授業を実施した。日程は2025年5月12日から6月30日にかけて全8回で、田原小学校と宇治田原小学校の4年生57名が対象で、地球研ドライコンポストに給食の残菜や調理くずなどの食品ごみを投入し、分解されて堆肥に変化していく過程を観察した。
昨年度からやまぶき支援学校でも昼休みの時間にコンポスト作りのアドバイスを提供してきたが、2025年度は9月8日から10月27日の全7回にわたって中学2年生17人を対象に、塩谷と青池がコンポスト授業を担当した。支援学校では、同じクラスでも学習の段階が異なる生徒が授業を受けているが、先生方のご協力や記録用紙の工夫によって、全員でコンポストの作業を楽しんで土に親しんでもらうことが可能となった。初回と最終回の授業は長くとり、コンポスト作りの目的や学んだことの振り返りをおこなった。
<ブックレット刊行>
京都府教育委員会との連携事業として2023年度から実施してきた「総合的な学習の時間」の成果と学びをまとめたブックレットを2025年9月に刊行した(#6)。本書は7章+謝辞、関連図書リスト、巻末資料をふくめて全114ページから構成され、ドライコンポストを用いた授業の進め方を広く知っていただき、教育現場に役立てもらうことを目的としており、コンポスト授業の普及をめざす。
<ウェスティン都ホテルでのドライコンポスト作り>
ウェスティン都ホテル京都におけるコンポストづくりは、3年目となった。総料理長の𠮷田泰宏氏のご理解もあり、引き続き、火・木曜日に食品残さを出してもらい、作ったコンポストは年に2回、春先(4月)と夏(7月-8月)に、城陽市の森秀吉農園に出荷している。今年度から農場全面で使用されるようになり、いちじくが栽培されている。収穫したいちじくはホテルに納品されて、パティシエの手によってケーキやタルトに作られて、ティーラウンジ「MAYFAIR」でお客様に提供されている。株式会社近鉄・都ホテルズによってプレスリリースが出されている(#256,257)。循環が生まれるだけでなく、食品残さを使うことで付加価値を生んでいる。
2)アフリカ5か国における活動(とくにジブチを中心にして)
<ジブチにおける取り組み>
今年度より東アフリカのジブチ共和国を本プロジェクトの調査対象とした。大山PLが2020年より、東京農大のSATREPSプロジェクト『ジブチにおける広域緑化ポテンシャル評価に基づいた発展的・持続可能水資源管理技術確立に関する研究』(代表者 島田沢彦教授)の一環でジブチ市近郊のドゥダにおいて農場を整備してきたものである。有機物循環プロジェクトには島田沢彦先生に共同研究員として参画していただいている。年間降水量120mmの極乾燥地で、下水の処理水と汚泥を使ってナツメヤシやザクロ、オクラ、メロン、スイカ、スーダングラスを栽培している。スーダングラスの点滴栽培でヤギ飼育をするというユニークな試みを継続している。ジブチ農業省と連携し、ジブチの若手役人の育成、およびIGAD地域(スーダン、南スーダン)の農業人材を育成する計画を進めている。
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2)目標以上の成果を挙げたと評価出来る点 |
物価―とくに食料品や農業資材、化学肥料の高騰、高温や小雨、洪水などの顕著な異常気象が世界各地でみられるようになり、物価高への対策、環境問題への高まりもあって、本プロジェクトに対する人々の期待、要請の高まりを感じている。FR2年目の段階で実践プロジェクトとして目標以上の活動成果を上げることができているのは、大山PLが先導するかたちでメンバーが精力的に活動し、日本およびアフリカ5カ国の政府機関、国連機関、研究者、海外拠点アシスタントとの連携、国内企業(ウェスティン都ホテル京都など)、京都市動物園、京都府教育委員会、小学校、美術家(アーティスト)、エディターなどとの連携や協力によるところが大きい。
有機物循環プロジェクトでは、地域の実情とニーズにおうじて、ごみ処理と、緑化や農業生産の改善・向上を結びつけることを重視している。日本―とくに都市部では人々や企業は日々の生活のなかで排出される生ごみの処理に関心が高く、地球研コンポスト(ドライコンポスト)を提案している。アフリカの都市部では生ごみの処理にも関心があるが、農村部における土地荒廃の問題や、高騰する化学肥料の節減に関心が高く、土地肥沃度の改善や化学肥料の節減、現金収入の増加に関心が高い。ザンビアやウガンダ、ガーナでは長年にわたる化学肥料の連続施用により土地荒廃が進行しており、有機資材による土壌微生物の活力を上げることで、トウモロコシやキャッサバなどの主食作物の生産、カカオや料理用バナナなどの商品作物の生産量を改善できると期待している。ニジェールでは、2023年7月のクーデターによって渡航できない状態が続いているが、大山PLが続けてきた都市の有機性ごみを使った緑化がニジェール環境省によって公式の緑化方法として認定され、国連IOM(国際移住機関)とニジェール環境省が北部都市アガデスで活動を開始するなど、社会実装が実現している。当初、研究成果のオーナーシップに悩んでいたが、アフリカにおける環境修復技術の確立事例は多くなく、日本政府の公式SNSやTICAD(アフリカ開発会議)、NHK World ”Direct Talk”などでも紹介されたほか、中学社会科、高校地理の教科書で取り上げられ、多くの新聞やテレビ、ネットニュースなどでも紹介され、社会実装の効果を体感している。
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3)目標に達しなかったと評価すべき点 |
ニジェールの環境省やジブチの農業省のように連携強化がうまく進み、FR2の目標はおおむねクリアーすることができたと考えている。ただ、昨今の食料品や農業資材の価格高騰、異常気象や気候変動、環境問題に対する危機感もあって、講演の依頼や取材の申し込み、テレビ・ラジオ出演の対応に追われた。これらの報道による反響は大きいものの、その時点で考えていることを話し、みずからの執筆活動につなげることができず、論文や図書の刊行に影響が出ている。成果の出し方について、検討が必要だと考えている。
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4)プログラムへの貢献について特筆すべき成果・課題 |
松田プログラム「科学と在来知との接合による総合的な環境文化の創成」では、地球環境問題の解決に資する研究のなかに、生活・文化の視点を導入することで、人びとの行動や価値観の変容までを射程に入れて、その過程を検討することにある。本プロジェクトでは、京都、ザンビア、ニジェール、ガーナ、ウガンダ、ジブチにおいて農業生産の低下、荒廃地の拡大、砂漠化や心身の減少に対して、人びとがどのように、その現象をとらえ、危機感をもちながら対応しようとしているのか現状把握を重視する一方で、都市部マーケットやレストラン、農家、養豚業のほか、食品や機械メーカーなどさまざまな日本企業、美術家やアーティストを結びつけ、具体的に地域の社会課題、あるいはグローバルな環境問題に取り組み、解決をめざすところに特筆すべき、松田プログラムへの貢献がある。エネルギーや資源の大量投入を必要とし、大規模生産をめざすのではなく、個人やコミュニティを単位として、自然プロセスや生物たちの力を借りながら、生活に根ざす小規模な生産をめざし、ゆるやかな生活変容を進めたい。一般性をもたず、なかなか科学の対象とはなりえなかった、個人の微細な生活知やネットワークに焦点をあて、それらの雑多な集合体である在来知により環境問題の解決に導きたい。
今後の課題
5.プロジェクトを進める上での今後の見込み(FR2)
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来年度はFRとしての中間地点となります。これまでの成果や課題から、研究計画の達成までの見通しを記載してください。 |
日本では、京都を中心に研究活動を展開する予定にしている。京都市内のホテルにおいて、レストランから排出される食材ごみを使ってドライコンポストによる堆肥づくりを継続し、農業生産者との有機物の循環づくりに取り組み、農産物やホテルのブランディングに寄与し、人のみえる形での社会資本の形成に貢献する。府内の小学校におけるコンポスト授業の提供は4校(特別支援学校)を維持し、小学校教諭や京都府教育委員会の協力を得ながら、府内小学校で授業の普及にむけた活動を継続する。京都市動物園ではミニコンポスト実験を継続し、環境教育法の開発・確立につなげる。第三者機関による化学性と生物性、そして有害重金属の分析を委託し、デザイナーエディターとともに商品化の可能性をさぐる。
2026年12月には、国際地理学連合(IGU)のアフリカ・コミッションによる国際会議が開催されることになっており、そこでセッションを組む予定にしている。また、2026年5月30-31日には日本沙漠学会年次大会を地球研で開催し、有機物循環プロジェクトとの共催で公開シンポジウムを開催する。5月と7月には研究会の開催、奇数月第一金曜日の有機物循環 公開セミナー(全6回)を開催する予定としている。3か国の実験圃場を管理するスタッフを集め、10月にはガーナでワークショップを開催し、情報交換をする。
本プロジェクトのホームページやSNSで積極的に活動を発信するほか、新聞やテレビ、ラジオなどメディアを通じて情報発信に取り組む予定である。有機物プロジェクトや研究者のブランディングを通じても、社会変革を進めていきたい。
6.来年度の研究計画
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図、表等を適宜使用し来年度の研究計画を記載し、記載しきれない図や表については項番9に記載してください。 |
来年度はFRの3年目となる。FR1年目、2年目に取り組んできたアフリカ5か国研究拠点を活用して、有機性ごみの活用方法と緑化、農業利用のパイロット実験に重点をおく予定にしている。積極的に、共同研究員に海外調査に参画してもらうことを期待している。
ニジェールで2023年7月にクーデターが発生した後、政情が不安定であり、治安情報の収集に努めるとともに、引き続き、リモートによる現地スタッフによるデータ収集を計画している。政情が好転し、外務省の安全情報がレベル2に下がった場合には、大山PLが治安状況を確認し、現地のカウンターパートと情報交換するために、短期間の渡航を予定している。ニジェール環境省との関係は良好であり、研究拠点も維持しており、いつでも現地調査を再開できる環境にある。
ザンビアでは原田と原SL、大山PLが中心となって現地調査を継続する。原田はJICA/JST SATREPSのプロジェクトを開始しており、本プロジェクトと連携する。原は首都ルサカ、および北西部州ムフンブウェ県で調査しており、2023年度に建設した実験圃場の観察を計画している。カウンターパートはザンビア大学経済・社会研究所、および地理・環境科学学科であり、地球研とは機関間学術交流協定を締結している。ルサカでは有機性ごみを餌とした養豚と豚ぷんを利用したトウモロコシ栽培、その収量調査と土壌改善の効果を検証する。
ウガンダでは塩谷SLと中澤、大山PLの3人が主な調査対象国としている。チャンボコ大学との学術交流協定の締結にもとづき、農村での作物栽培から首都カンパラの消費者まで、各プロセスにおけるフードロスの問題について共同研究を実施する予定にしている。ウガンダでは都市部で女性の肥満が問題となっており、レストランにおいても大量の主食が提供され、消費者は食べきれずに捨てているのが現状であり、フードロスの実態を解明するのは重要である。また、ウガンダではポークジョイントと呼ばれるブタ肉を食べる都市文化が根づいており、都市でブタ肉を生産する予定にしている。首都カンパラ近郊のルウェロ県に建設した実験圃場で、養豚やコンポストのパイロット実験を継続する。
ガーナでは牛久SL、桐越、大山PLの3人が調査を継続している。桐越は森林帯とサバンナ帯に5m四方の実験圃場をつくり、地域の生活ごみを投入し、どのような植物が生育してくるのかを観察している。同様の実験は、ザンビアでも開始しており、生育する植物の種と重量を比較したいと考えている。Anderson(1952)やAbbo et al. (2005)、Mannion (1999)は農業の起源としての“Dump-heap hypothesis”(ゴミの野積み理論)を提唱しており、住民が生活するゴミの蓄積により生育する植物種の変化を明らかにする予定である。アクラとクマシにおいて実験圃場を建設して、有機性ごみを材料としたコンポストや養豚と組み合わせたオーガニック・カカオの栽培実験をおこなう予定にしており、明治製菓との協業も検討し、協議を進めていく。
ジブチでは、首都ジブチに敷設されている下水道を通じて下水が処理場に流れてきて、処理がおこなわれている。下水処理場に隣接するかたちで、農場が建設されており、1ヘクタール(100m四方)の実験圃場があり、乾燥地農業の技術開発を進めている。ジブチ農業省のはからいで、実験圃場の運営を継続する。ジブチは年間降水量140mmほどの熱帯極乾燥の環境にあり、水が農業の強い制約条件となっている。下水処理水を灌漑に使用することで、2020年よりナツメヤシ30本を栽培しつづけている。強い日射、高温、乾燥という厳しい環境のもとにあるが、下水処理水を灌漑に使用したアグロ・パストラルシステムの構築をめざす。
各国の実験圃場には、気象観測装置(雨量、温・湿度)を設置する予定にしており、自動計測・記録をする。また、有機性ごみの放置、あるいは農業利用におけるCO2やCH4の放出をチャンバー法で計測するため、CO2とCH4のセンサーを購入し、現地観測に使用する予定としている。CO2とCH4の計測は、共同研究員の中野が担当する予定としている。
7.来年度以降への課題
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① これまでの研究の遂行からプロジェクトとして得られた、あるいは直面した課題と、その解決策を具体的に述べてください。 ② プロジェクト研究に対する研究所の支援体制について特に課題となるものがあれば述べてください。 |
① プロジェクトが直面した課題とその解決策
有機物循環プロジェクトでは、コンポストに関する調査・研究、データの集積のほか、学会での研究発表、小学校や特別支援学級などでの授業提供、イベントでの講演、地球研への訪問者に対する説明、メディアの取材、企業や学校などの関係者との面談など、多くの機会が存在する。そのなかで、データや知見、アイディアのオーサーシップ、日々の研究活動の積み重ねが尊重されないケースが散見されるようになった。この対策として、2025年10月に大山PLが呼びかけ、主要メンバーで研究倫理の勉強会を開催し、科学者の責務とオリジナリティ、研究不正、AIの活用と研究成果の出し方などの討議をおこない、メンバー間の理解を促した。また、プロジェクトへの問いあわせなく、外部者による動画の無断作成、インターネット上での掲載などもあることから、地球研・共同利用係のご指導・協力のもとで、地球研コンポスト(ドライコンポスト)については特許の取得や商標権の手続きもおこなった。松田素二PDには相談にのっていただいている。
② プロジェクト研究に対する研究所の支援体制についての課題
研究企画係や共同利用係、広報室をはじめ、多くの点で支援していただき、深く感謝しています。プロジェクト内でも研究推進員、事務補佐員、研究員には多く助けられている。支援体制には課題はないと思いますが、クロスアポイントメントでの地球研の用務は、プロジェクト運営や研究推進だけにとどまらず、プロジェクトリーダーが激しい労働環境におかれていることを感じている。