プロジェクト区分 | フルリサーチ(FR) |
期間 | 2021年04月 - 2028年03月 |
プログラム | 地球人間システムの共創プログラム |
プロジェクト番号 | 14200156 |
研究プロジェクト | 人・社会・自然をつないでめぐる窒素の持続可能な利用に向けて |
プロジェクト略称 | Sustai-N-able |
プロジェクトリーダー | 林 健太郎 |
URL | https://www.chikyu.ac.jp/Sustai-N-able/index.html |
キーワード | 窒素問題、窒素利用、窒素汚染、窒素循環、持続可能性 |
研究目的と内容
1)目的と背景
本研究は、肥料、工業原料、また、近年着目される燃料としての窒素利用およびエネルギー源としての化石燃料利用という便益が、全球~局地スケールの窒素汚染という脅威をもたらすトレードオフである「窒素問題」を対象とする(9.図1)。本研究の目的は、日本を主な研究対象とし、国内外の活動と連携し、普遍的で世界に適用可能な窒素問題の評価手法や将来シナリオおよびこれらの基礎となる知見創出に貢献し、国連環境計画(UNEP)による国際窒素管理および日本国の窒素管理の行動計画を支援して国内外の取り組みを大きく前進させ、2050年における窒素問題の解決と、food equityおよび人と自然の健康の実現を目指すことである。FR5までの限られた研究期間においては、次の3つのブレイクスルー、①学術的知見に基づき窒素利用の便益と窒素汚染の脅威を評価して可視化する仕組みの構築(窒素の因果解析)、②多様なステークホルダーへの窒素問題の認識の浸透(窒素の認識浸透)、および③将来世代の持続可能な窒素利用に向けた将来設計(窒素利用の将来設計)に挑戦する。
窒素汚染は、地球温暖化、成層圏オゾン破壊、大気汚染、水質汚染、富栄養化、酸性化といった多様な環境影響の原因となり、人と自然の健康に害を及ぼす。窒素汚染の被害コストは、2000年代の世界全体で年間約3千4百億米ドル~3兆4千億米ドルと推定された(UNEP, 2019a)。人間活動に伴う反応性窒素(安定な分子窒素[N2]を除く窒素化合物の総称、Nr)の生成量は、いまや自然界の生成量を大きく上回っている(Fowler et al., 2013)。しかし、人類の窒素利用効率(投入窒素のうち最終産物に達する割合、NUE)はシステム全体で約20%と低く(Sutton et al., 2013)、必然的に大量の廃棄窒素(人間活動の結果、環境に排出される窒素の総量)が発生し、このうち無害なN2に変換されずに環境に排出されたNrが窒素汚染を引き起こす。プラネタリー・バウンダリーに基づく地球環境問題の評価では、3回の評価の全てにおいて、人為的な窒素循環の改変は地球システムの限界を超えたとされる(Rockström et al., 2009; Steffen et al., 2015; Richardson et al., 2023)。窒素の最大用途である肥料について、世界平均の作物生産のNUEは約50%であり、家畜生産では約10%である(Lassaletta et al., 2014; Bouwman et al., 2013)。畜産物嗜好は食料システム全体のNUEを低下させ、食品ロスは食べずに失われた食料に加えてその生産に投入した窒素などの資源を無駄にする。肥料利用を巡る経済格差により、世界には窒素過多と窒素欠乏の双方の地域がある(Schulte-Uebbing et al., 2022)。生産と消費の場はしばしば国境をまたぎ、消費国は意識せずとも生産国の窒素汚染を助長しうる(Oita et al., 2016)。人為起源の廃棄窒素は増加し続け、2005年には1961年の約4倍、2050年には約6倍になると推計されている(Sutton et al., 2021)。増加中の世界人口を限られた農地面積で支えるために農地への窒素投入は増え、農地由来の窒素汚染が増大する可能性が高い(Mogollón et al., 2018)。また、アンモニア(NH3)を燃料や水素キャリアとしてエネルギー源にするという窒素の新しい用途が生まれている(Nishina, 2022)。それぞれの窒素用途について、今後の推移を注視することに加え、窒素利用の便益の維持と窒素汚染の脅威の緩和を両立する持続可能な窒素管理の実現が求められる。
Hayashi et al.(2021)より日本の状況を整理する。2000~2015年の廃棄窒素総量は600万トン弱で推移し、国民1人当たりでは世界平均の約2倍であった。廃棄窒素の約80%が正味の輸入に由来し、国内の再生利用の場が限られることに加え、輸出国に生産時の窒素汚染を負わせている。日本の消費者はタンパク質の約20%を水産物から摂取し、農・畜産物と同じく水産物の窒素フローの評価が求められる。自然起源の窒素を漁獲する水産物のNUEは数百%になるが、水産資源の枯渇をもたらすリスクがある。2000年代には環境へのNr排出が減少を続け、特に輸送部門の窒素酸化物(NOX)で顕著であった。一方、日本政府は、脱炭素化に向けて、炭素を含まず燃やしても二酸化炭素が発生しないNH3燃料に注目している。NH3の国内需要は、2015年には窒素換算で100万トン弱であったが、経済産業省は、2030年には燃料向けで400万トン窒素、2050年には同2500万トン窒素(2015年の世界生産の18%に相当)のNH3導入計画を公表した(経済産業省, 2021)。供給は主に輸入に頼り、NH3価格の変動影響を含む肥料・産業・エネルギー用途間の競合という経済面の懸念と、NH3の漏洩や燃焼したNH3から発生するNOXによる窒素汚染の助長という環境面の懸念がある。このように、日本の窒素利用の将来には大きな振れ幅が予想され、国内の変化は貿易を介して世界にも波及することから、日本における持続可能な窒素利用の実現に向けた政策・技術・行動変容は、世界の窒素問題の解決にも貢献する。
国際窒素イニシアティブ(INI)は2003年に正式発足した専門家グループであり、窒素利用の便益と窒素汚染の解消の両立を目指し、国際プロジェクトの立案、国際機関の支援、原則3年ごとの国際窒素会議の主催などの活動を行ってきた(INI, 2024)。PLの林は2022年11月にINI東アジアセンター代表およびINI運営委員に就任し(日本初、任期3年✕2期まで可)、東アジアに加えて東南アジアの専門家のネットワーキング、国内外の活動との連携、および第10回国際窒素会議(2026年11月予定、京都)の準備に取り組んでいる。UNEPとINIは、科学的知見を国際政策に活かす国際窒素管理システム(INMS)プロジェクトを実施した(2017年10月~2023年6月)(INMS, 2024a)。PLと数名のSusNメンバーはINMSに貢献してきた。INMSは、国連持続可能な開発目標(SDGs)と連動して世界の廃棄窒素を半減する目標を掲げ、科学的知見を集めた国際窒素評価書(INA)を2025年秋に発刊予定である。INAに対してPLは編著者として、数名のSusNメンバーは著者として貢献している。SusNはINMSのスピンオフとも言え、INMSウェブサイトで紹介されている(INMS, 2024b)。UNEPが約2年ごと開催する国連環境総会(UNEA)の第4回と第5回において「持続可能な窒素管理決議」が採択された(UNEP, 2019b; 2022)。最初の決議を受けて、UNEPは2020年に窒素作業部会(WGN)を設置して国際窒素管理の在り様を議論してきた(WGN, 2024)。2022年から日本も環境省[窓口機関]と農水省がWGNに参加している。PLとSusNメンバーの仁科(国環研)は、第4回WGN会合から専門家として参加して両省を支援している。2024年の第6回UNEAでは改めての決議が見送られたものの、2025年12月に予定される第7回UNEAに向けた対応がWGNにおいて議論されている。また、2009年に設立されたUNEP栄養塩類管理に関するグローバル・パートナーシップ(GPNM, 2024; 窒素とリンの持続可能な利用に向けたマルチステークホルダー・グループ)に対し、地球研はPLを窓口として2024年はじめに参画し、その後、環境省の推薦を受けてPLはGPNM運営委員に就任した(任期3年)。
窒素問題に関する研究は、個別トピック、例えば、環境中の窒素循環プロセスの解明や数値モデル化、環境モニタリング、個々の汚染の環境影響評価、指標としての窒素フットプリント開発、農業環境政策の立案、産業用途の技術開発などで進展してきた。一方、窒素問題の解決には学際的課題が多く残されている。その例として、Nr負荷に対する自然生態系の応答と影響、人間社会の窒素フローと環境へのNr排出の精緻な定量およびこれらの将来シナリオ、政策・技術・行動変容が窒素面でもたらす物質・経済的な効果、そして、窒素利用と窒素汚染の因果関係を可視化して持続可能な窒素利用に向けた意思決定を支援する仕組みが挙げられる。さらに、多様なステークホルダーと持続可能な窒素利用の在り様を共創する超学際的な取り組みが不可欠である。なぜなら、窒素は食・モノ・エネルギーの生産・消費を通じて人間活動の全てと深く結びついているからである。仮想未来人となって問題解決のアイデアを編み出す手法であるフューチャー・デザイン(FD)は、持続可能な窒素利用を実現するアイデアを編み出すにも有用と期待される。SusNでは、第3期の頃よりプログラム3のPDであった西條フェローおよび地球研戦略プログラムFDプロジェクト(PL:中川)と連携してFDの窒素問題への応用に取り組んできた。
2)地球環境問題の解決にどう資する研究なのか
SusNでは、各専門分野の研究の深化と併せて3つのブレイクスルー(①窒素の因果解析、②窒素の認識浸透、③窒素利用の将来設計)を目指す。最終成果として、①については政策・技術・行動変容により窒素利用と窒素汚染がどのように変化するかを定量評価(例:費用便益評価[CBA])して可視化するツール、②については最新の学際知(例:日本窒素評価書[JaNA]、各種専門書籍)、超学際知(例:窒素問題のリーフレット、各種動画・読み物などのナラティブ)、および各ステークホルダーへのアプローチ、③については国内外の多様なステークホルダー(例:政策決定者、専門家、消費者、生産者など)とのFDの実践、UNEPなどの国際窒素管理との連携実績が得られる。窒素問題とは、大きな便益を求める我々の窒素利用が多様な窒素汚染という脅威を伴うトレードオフであるが、この関係性の複雑さが窒素問題の認識を妨げており、便益の維持と脅威の緩和を両立する困難さが窒素問題の解決を妨げている。SusNの最終成果は、窒素利用と窒素汚染の因果関係に基づき、各種対策・行動変容の効果の定量的情報を提供し、窒素問題に関する学際・超学際知を通じて多様なステークホルダーが窒素問題を自分事に落とし込むことを促進し、その上で、将来世代が窒素を持続可能に利用するためのアイデアを生み出す機会と実践の蓄積をもたらす。この結果、国内外における窒素問題への認識が増し、持続可能な窒素利用に向けた既往・新規の取り組みが強化され、窒素問題の解決へのブレイクスルーに至ると期待する。
3)研究手法・構成・ロードマップ
人間社会と自然の全てを包含する窒素問題には未解明の事柄が多い。そこで、研究手法の第一の柱は、自然・人間活動の物質面および人間活動の経済面を網羅した科学的知見を集積するとともに、自らが学際研究(例:野外調査、室内実験、数値解析、アンケート調査、データ整備、シナリオ構築など)を推進することとする。窒素問題の解決に向けた行動を起こすには、政策決定の支援、各ステークホルダーの窒素問題の認識浸透、および将来世代の持続可能な窒素利用に資するアイデアを生む仕組みが求められる。よって、第二の柱は、既往・最先端の学際知を統合し、他のステークホルダーとともにブレイクスルーを目指す共創と実践を行う超学際研究とする。そして、第三の柱は、SusN単独で成し遂げられることには限界があるため、国内外の窒素関連プログラム・プロジェクトと密接な連携を図り、正のシナジーを生み出すことである。こういった連携は、多くのスピンオフを生み、SusN終了後も持続可能な窒素利用に資するプロジェクト群が継承される確度を高める。
SusNは、3つの学際研究班として、「自然循環班」(環境中の窒素動態の未知の解明や他の班の解析における窒素の自然科学面の情報・データの提供など)、「人間社会班」(食・モノ・エネルギーの生産・消費に伴う窒素フローと環境に対する各Nr種の排出量の算定や窒素利用の将来シナリオの構築など)、および「経済評価班」(食料の生産・消費など人間活動における社会的費用の計測や窒素に関する行動変容・ナッジ効果の解明など)、そして、他の3つの班と連携して3つのブレイクスルーを成し遂げる超学際研究班として、「将来設計班」からなる。共通解析サイトを設けるとともに、局地~地方~国~地域~世界と各スケールをつなぎ、ボトムアップとトップダウンの両面から学際・超学際研究に取り組む(9.図2)。
研究のロードマップは「7.研究計画」に示す。共通研究サイトは琵琶湖、霞ケ浦、および東京湾などとし、各班が独自に取り組むサイトも設定する(例:将来設計班の与謝野町および宮古島など)。4つの班が密接に連携し、各サイトにおける自然・社会の窒素循環の実態および窒素問題の要因-圧力-状態-影響-応答(DPSIR)連関(環境指標の基本フレーム;EEA, 1999; EEA, 2005;9.図3)の解明、各地域のステークホルダー(生産者や消費者など)の窒素問題に関する行動および問題解決に資する変容の素地の相違・相同点の解明、および窒素問題に対する認識浸透や将来設計に向けた超学際研究を行う。例えば、自然循環班は森林~沿岸をつなぐ窒素循環の未知の解明や20年前と現在の全国山地渓流水質の比較解析、人間社会班は都道府県単位の窒素収支解明や産業連関分析および窒素利用の将来シナリオ構築、経済評価班は窒素の社会的費用の計測や消費者や生産者の窒素問題に対する行動選択の解析、将来設計班はブレイクスルー①②③を国スケールで達成するため、サイトを限定しない活動に取り組み、③では国際展開にも取り組む。
4)期待される成果
確実な達成が期待されることは、学際知見の大幅な充実(例:全国山地渓流水質とNr排出の時空間的関係、人間社会の窒素フローと環境へのNr排出量、窒素の社会的費用や窒素汚染対策効果の効果など)、自然・社会科学の協働研究成果(例:自然科学の知見で裏打ちした社会実験成果、窒素フットプリントなどの指標の経済評価や行動変容への活用、窒素利用と窒素汚染の因果解析ツールなど)、学際・超学際知に基づく各種のナラティブ(例:窒素問題のリーフレットや動画[制作済]、各種のアウトリーチ活動を通じた窒素問題への認識浸透、各種専門書籍、最終成果物となるJaNAなど)、および国内外のステークホルダーとのFD実践から得られる持続可能な窒素利用に資するアイデア群である。具体的な成果物として、窒素の因果解析の可視化ツールの公開(①)、プロジェクト外の専門家とも連携したJaNAの発刊(②)を計画している。関連する重要な成果として、UNEPなどの国際窒素管理や日本国の窒素管理への貢献、FR3半ばのINAの発刊(PLが編著者として参画)、FR4後半の第10国際窒素会議を京都開催が挙げられる。その先の夢は、将来世代の持続可能な窒素利用、すなわち、窒素問題の解決と、豊かで公平な食および人と自然の健康の実現である(9.図4)。
5)研究組織
SusNは学際研究を担う3つの班(自然循環班、人間社会班、経済評価班)および超学際研究を担う1つの班(将来設計班)の計4つの班から構成される。自然循環班、人間社会班、経済評価班はそれぞれの専門領域の研究の深化に努めるとともに、共通解析サイトにおいて連携して調査・解析を行い、窒素問題に対する分野横断的な学際知の蓄積を図る。将来設計班は他の3つの班と連携し、他のステークホルダーとともに超学際知の共創を行う。将来設計班は複数のミッションを立ち上げ、ミッションごとに各班の関心者を含むチームを形成して達成を目指す。各班には班長を置き、各班の研究活動をリードする。各班は班長の判断により、必要に応じてサブ班長を設ける。超学際知の共創という統合タスクを担う将来設計班では、PLが同班班長を兼任する。各班の班長とメンバー構成(2024年11月20日現在)は9.図5に示すとおりである。
本年度の課題と成果
1)研究プロジェクト全体のこれまでの進捗
〇 手法開発や組織形成を含むこれまでの研究成果
窒素問題には、環境中の窒素動態、人間活動における窒素フローと環境とのつながり、窒素問題への取り組みの経済効果や社会・人の行動変容などの未知が多く残されており、SusNは窒素問題に関する学際研究の最先端を担う必要がある。そして、窒素問題の解決に向けたアクションを作り出すには、政策などの意思決定の支援、いまだよく知られていない窒素問題への認識の浸透、将来世代の持続可能な窒素利用を実現する自由なアイデアを生み出す仕組みが求められる。それぞれをSusNが目指す3つのブレイクスルー:①窒素の因果解析、②窒素の認識浸透、③窒素利用の将来設計と位置付け、自然循環、人間社会、経済評価の各班が学際研究に取り組みつつ、将来設計班の超学際研究につなげ、ブレイクスルーに貢献する具体的課題(ミッション)を複数設定し、ミッションごとに各班(場合により外部)から参画者を得たチームを形成した(例:窒素の費用対便益分析[CBA]、首都圏・東京湾を対象とした窒素負荷・環境状態の解析、国内外の多様なステークホルダーとのFD)。SusN共通の研究サイトとして、首都圏・東京湾、松島湾、琵琶湖、霞ケ浦を選定して取り組んできたところ、FR2では首都圏・東京湾および琵琶湖を主対象とした研究に収斂しつつある。一方、地方スケールのステークホルダー連携として、宮古島および与謝野町における活動が本格化しつつあり、南阿蘇を起点とした熊本市や水俣市の生産者・消費者との連携も模索している。貧栄養化が問題となっている瀬戸内海については、他地域も含めて、環境省が2024年9月に公表した「持続可能な窒素管理に関する行動計画」(環境省, 2024)に伴う自治体スケールの活動が今後盛んになっていくことから具体的な連携が始まると期待する。また、国内外のプログラム・プロジェクトとの連携を重視し、国内では、地球研における他の活動に加えて、JST COI-NEXT美食地政学(PL:松八重、SusN人間社会班班長)、環境研究総合推進費JpNwst(PL:仁科、SusNメンバー)、NEDOムーンショット(PL:川本、産総研)、ライフサイクル影響評価手法LIME(伊坪、早大)など、国外ではINIやUNEPなどと連携している。そして、SusNが最重視することは、多様な学際・超学際分野の人つながりを醸成することである。生物地球化学、安定同位体化学、環境工学、産業エコロジー学、農学、農業経済学、環境経済学、人生史学、政策学などの各分野の第一線の研究者、そして、農業、食文化、調理、環境教育、メディアなどの学際・超学際面からユニークな活動を行っている研究者と専門家の参画を得て、先述の3つの学際研究班と1つの超学際研究班の形成と強化を図ってきた。加えて、窒素問題の解決に資する研究やアクションの担い手に育つことを期待する地球研研究員および多岐に渡る分野の人つながりと多様な活動をスムースに進めるために研究推進員を雇用している。
FSでは日本の窒素収支を公表し(Hayashi et al., 2021、地球研共同プレスリリース)、シンポジウムやワークショップを多数開催し、「図説 窒素と環境の科学」(林ほか, 2021)を発刊した。PRにおいては、研究成果として窒素問題に関するレビュー・書籍・記事の公表機会を多数得た。FR1においては、全国山地渓流水の調査をシチズンサイエンスの手法で行う「山の健康診断」(京大フィールド研, 2022)を支援し、複数の共催イベントを実施した。山の健康診断は、SusNが当初FR1で行う計画であった調査の先取りであり、地球研FR環境意識プロジェクトの2003年全国調査のフォローアップにも当たる。また、FDプロジェクトと連携した活動、システム思考による窒素問題の解釈および窒素問題の認識浸透の戦略作りのワークショップ(ロフトワーク, 2024a、84)、および宮古島や与謝野町における活動を開始した。FS末からPR前半にかけて農水省、環境省、経産省、国交省に対して窒素問題の勉強会を開催し、環境省から幾度かの照会を受けた後、令和5年度環境研究総合推進費の行政ニーズに「窒素に関する大気・水・土壌の包括的な管理手法の開発」が掲げられ、提案課題がJpNwst(PL:仁科)として採択となった。JpNwstは、日本国窒素インベントリの整備と廃棄窒素削減ポテンシャルの評価を通じてブレイクスルー①③の実現に貢献する。PLはPRにおいてINI東アジアセンター代表に立候補し、日本から初めて選出された。FR2では各班の成果発信が進み、全国山地渓流水の硝酸塩濃度の解析結果(Makino et al., 2024、17)、家庭食品残渣のフットプリント(Shigetomi et al., 2024、15)、持続的農業の経済学(栗山, 2024、8)などが公表された。JaNA編集委員会を立ち上げ執筆要綱および章立て案を作成した。将来設計班戦略作りワークショップを2回開催し、多方面で講演・講義・トークの機会を得て、宮古島では食事の年表ワークショップを開催し、与謝野町では同町スマートグリーンビレッジ確立協議会の活動に貢献した。アートとの連携としてクリエイターと共に「怪談と窒素」展を企画実施し(ロフトワーク, 2024b、79)、地球研と金沢21世紀美術館が連携した作品展示に貢献した(77)。FD体験パッケージを構築して第22回国際窒素ワークショップで実践し(N Workshop, 2024、116)、日本土壌肥料学会2024年度福岡大会で環境省と農水省から話者を得たシンポジウムを開催し(114)、環境省の窒素管理行動計画の策定に貢献した。国際的にはWGNおよびGPNMの会合に参加し、INI主催の第10回国際窒素会議の京都招致を実現した。より詳細な内容は「3の1)」で述べる。
〇 プロジェクトのめざす最終成果のどの部分が達成されたか
ブレイクスルー①窒素の因果解析については、CBAの入口部分が整いつつある。FSでは環境指標の基本フレームとなるDPSIR連関の窒素問題への応用を議論し、PRではINMSプロジェクトのCBA事例の情報収集を行った。新型コロナウイルス感染症によりINMSにも大きな停滞が生じ、最終成果物であるINAの公開は2024年夏に先延ばしとなった後、さらに2025年秋予定にずれ込んだ。そこで、FR1ではCBAにつなげる習作と班・他プロジェクト連携を兼ねて下水道のライフサイクル影響評価(LCIA)に着手し、FR2ではこれを継続しつつ富栄養化の被害係数の算定に着手した。
ブレイクスルー②窒素の認識浸透については、情報発信の多様な媒体を制作し、アウトリーチ機会を多数獲得し、認識浸透の戦略を見出し、アート・デザインとの連携が実現した。窒素問題の認識が少しずつ広がっていると実感している。ISより市民向けトークイベントを企画し、FS・PR・FR1では窒素循環シンポジウムを共催していずれも数百名の参加を得た。窒素問題を伝えるマテリアルとして、FSに「図説 窒素環境の科学」を刊行し(林ほか, 2021)、PRにイラストを交えた日・英版リーフレットを制作し、FR1末に窒素問題を2分で紹介する日・英語字幕版動画(地球研・ロフトワーク, 2024)を制作してFR2はじめに公開し、SusN最終成果物であるJaNAの編集委員会を立ち上げて章立て案および執筆要綱を取りまとめた。
ブレイクスルー③窒素の将来設計については、国内外の窒素管理への直接貢献を実現した。国内では「持続可能な窒素管理に関する行動計画」(環境省, 2024)の策定および今後の実践を支援し、国際ではINI運営委員かつUNEPのGPNM運営委員およびWGNの専門家としてのアドバイザーとしてこれらの活動を支援している。FDについては研究面の取り組みを進め、その一部は成果として公表され(Nakagawa et al., 2024)、FD体験パッケージを制作して国際会議の場で実践した。また、原則3年ごと開催の国際窒素会議の京都招致を実現した(2026年11月予定)。
〇 計画などで想定した以外の成果で特記すべきもの
PLのINI運営委員・東アジアセンター代表のポジション(2022年11月~)は審査に基づくものであり、SusNへの期待とそれを果たそうとするPLの努力が認められた結果と認識する。FSにおける日本窒素収支評価(Hayashi et al., 2021)のプレスリリースは、行政機関やメディアの問い合わせを生み、PRからFR1にかけて関係省への勉強会および意見照会を経て、SusNが日本国の窒素管理やその行動計画の策定を支援する体制を構築してきた。その結果、環境省の推薦を得て、PLはGPNM運営委員に推され採択となった。PLはまた農水省への支援も行っており、FR2には両省から話者を招いた学会シンポジウムを成功させた(80名が対面参加)。2024年9月27日付け公表の「持続可能な窒素管理に関する行動計画」(環境省, 2024)では検討委員会座長として本文作成や英訳にも貢献した。これらはSusNのアウトカムとして実現することを期待していた事柄であるが、想定より早くかつ想定以上の規模で実現したこととして特記する。
〇 直面した課題やその解決策など
2023年5月に新型コロナウイルス感染症が5類感染症に移行し、研究・調査の速度感が元に戻った。しかし、活動遅延の影響は残り、連携したINMSプロジェクトのINAの発刊が2025年秋へと遅延した。INA掲載予定のCBAの枠組みはSusNのブレイクスルー①の参考としたい情報であり、INAの発刊を待ちつつ、LCA研究者(伊坪、早大)CBAの予備研究に取り組んできた。FR2後半より伊坪がリーダーを務めるBRIDGEプロジェクトが立ち上がり、CBAとLCAを組み合わせた解析を加速する。
2)研究目的、手法、組織体制の変更・見直し
研究目的、手法、組織体制ともに大きな変更はない。ただし、具体的な取り組みと研究組織の充実は随時行っており、FR2にも新たな共同研究者を迎えたとともに、JaNAや第10回国際窒素会議といったアウトプットやアウトカムに係る事務作業増加に備えて研究推進員を2名体制とした。SusNではPR終了時で以てサブリーダーかつ将来設計班共同班長が退任したが、新たなサブリーダーは設けない。なお、自然循環班と人間社会班は班内に副班長を任命している。
3)本年度の成果
〇 研究成果(手法の開発や組織の形成などを含む)
昨年度の研究審査・報告会以降の成果として記載する。ブレイクスルー①窒素の因果解析に資する学術的成果として、「山の健康診断」の方法論と硝酸性窒素濃度の全国分布を示す論文(Makino et al., 2024)、家庭食品残渣の気候変動面のフットプリントを解析した論文(Shigetomi et al., 2024)、施肥試験のメタ解析による減肥の実現可能性(Nishina et al., 2024)、農業・環境経済の既往の知見および窒素問題に関する今後の研究課題をまとめた書籍(栗山, 2024)を公表した。また、バイオガスと水稲栽培、システム思考を用いた窒素問題の認識浸透の戦略(9.図6、図7)などについて論文を投稿し(審査中)、「持続的農業の経済学」の英文書籍化を進めている。各班の取り組みは計画どおり進捗し、班連携については松島湾における自然循環班・人間社会班の現地調査結果の論文を執筆中であり、首都圏・東京湾における自然循環班・経済評価班のモデル評価結果の考察を深めている。窒素の因果解析ツールに結び付けるCBAにつながる習作として、LCAの専門家と下水道のLCIAに取り組み(Sjyadi et al., 2024)、FR2後半より始まったLCAプロジェクトと連携しての富栄養化の被害係数算定を開始した。窒素フットプリントの概念を構築したヴァージニア大のチームのN-Printウェブサイトに日本語表記および日本人の窒素フットプリントの計算を可能とするコンテンツを追加して暫定公開した(N-Print, 2024)。UNFCCC COP29に合わせて刊行となったGlobal Nitrous Oxide Assessment(UNEP & FAO, 2024)にFR1において出版した論文(Hayashi & Itsubo, 2023)が引用された。
ブレイクスルー②窒素の認識浸透に関する成果として、PR末に制作したリーフレット(日・英版)を2300部以上配付してきた。FR1末に制作した2分の動画(日・英語字幕版)も認識浸透の有効なマテリアルとして積極的に活用した。SusNが主共催したイベントは、Sustai-N-able Island Day〜宮古の食と環境をつなぐ〜、与謝野町報告会、美食を支える人が創る地球の未来シンポジウム、第22回国際窒素ワークショップFuture Design体験イベント、宮古島食事の年表ワークショップ2024、2024年度日本土壌肥料学会福岡大会シンポジウムVI、およびSense of the Unseen vol.1 怪談と窒素展であった。このうち、宮古島における活動は今後の地方スケールの取り組みのモデルになると期待する。日本土壌肥料学会シンポジウム(対面80名参加)は環境省と農水省からも演者を得て、今後の窒素管理について意見交換する重要な機会となった。PLは講義・講演・トークの機会を本年度も多数得て、聞き手には窒素問題について一定の理解を有する者が現れており、窒素問題への認識浸透が少しずつ進んでいると実感している。企画・運営でロフトワークと連携して京都で実施した怪談と窒素展は、各クリエイターが研究者と各々で意見交換をしつつ創作を行い、キービジュアルとギャラリーのクリエイターも交えて全体の統一感を高めた展示となった。同展は好評を博し、東京において巡回展を追加実施することになった。金沢21世紀美術館と地球研が連携した展示「アニマ・レイブ」にも参画した。SusN最終成果物のJaNAの編集委員会を立ち上げ、章構成を練り、京都大学学術出版会と相談しつつ執筆要綱を固め、各章の主著候補者の選定を行った。
ブレイクスルー③窒素利用の将来設計に関する成果として、FDの活用に挑戦し、第22回国際窒素ワークショップにおいて2回の体験イベントを実施した。2024年5月21日に公開された「第六次環境基本計画」(環境省)には窒素管理が明記された。これは、2022年4月の環境省に対するオンライン勉強会(環境省より局長クラスを含む約70名参加)およびその後の複数回の意見照会が功を奏したものと捉えている。環境省はFR1後半から国としての窒素管理の行動計画の策定にも着手し、PLは検討会の座長を担って貢献し、2024年9月27日に「持続可能な窒素管理に関する行動計画」が公表された(環境省, 2024)。PLとSusNメンバーの仁科は環境省の依頼によりUNEPのWGNを専門家として支援し、PLは環境省の推薦を受けてUNEPのGPNM運営委員に抜擢された。このように、今後の国内外の窒素管理に対してSusNが直接・間接に貢献する足掛かりを構築できた(9.図8)。
ブレイクスルー②と③に関わることとして、将来設計班のメンバーを中心に、窒素問題の認識浸透と主に地方スケールでの取り組みを強化するための戦略作りのワークショップを2回開催し、宮古島の活動、与謝野町の活動、南阿蘇・熊本そして水俣への展開、環境教育との連携など多様で具体的なアイデアが生まれた。そして、ブレイクスルーの全てに関わることとして、INI運営委員会へのアピールにより第10回国際窒素会議の京都招致が満場一致で採択された。現在、組織づくりおよび全体構成の準備などを進めている。
〇 プロジェクトが目指す最終成果のどの部分が達成されたか
ブレイクスルー①窒素の因果解析:CBAの入口部分が整ってきた。窒素の自然・人間社会における挙動に関する学際的知見の一層の充実を図り、CBAの習作および他プロジェクトの連携としてFR1から始めた下水道のライフサイクル影響評価(LCIA)を継続しつつ、FR2後半に採択となったLCAプロジェクトと連携し、陸域生態系の富栄養化に対する被害係数の算定に着手した。
ブレイクスルー②窒素の認識浸透:窒素問題の認識が少しずつ浸透し、窒素問題への関心が増してきた。窒素問題を2分で紹介する日・英語字幕版動画(地球研・ロフトワーク, 2024)を公開し、認識浸透の戦略(林ほか, 2024)に基づき、多様なアプローチのアウトリーチの強化を行った。アート・デザインとの連携による展示企画が好評を博し、巡回展にも発展した(ロフトワーク, 2024b)。将来設計班メンバーを中心に今後の地方スケールの具体的な取り組みの戦略作りのワークショップを2回開催した。SusN最終成果物である日本窒素評価書(JaNA)の編集委員会を立ち上げて、章立て案および執筆要綱を取りまとめた。
ブレイクスルー③窒素の将来設計:国内外の窒素管理への直接貢献を実現した。国内では「持続可能な窒素管理に関する行動計画」(環境省, 2024)の策定を支援し、国際ではINI運営委員かつUNEPのGPNM運営委員およびWGNアドバイザーとして関連活動を支援した。FD関連活動の論文が採択され(Nakagawa et al., 2024)、窒素問題を取り入れたFD体験パッケージを制作して国際会議の場で実践した。マルチステークホルダーの議論の場になると期待する第10回国際窒素会議の京都招致を実現した。
4)目標以上の成果を挙げたと評価出来る点
最も評価できる点は、国内外の窒素管理への関与が実現したことである。環境省の窒素管理の行動計画(国レベルで世界初)の策定に貢献し、UNEPが主導する国際窒素管理に専門家として直接に、また日本を支援する形で間接に貢献できるようになった。
この経緯として、FSから実施してきた各省への勉強会や先方の意見照会への対応が功を奏し、PR末に環境研究総合推進費のJpNwstプロジェクト(2023~2023年度)の採択に漕ぎ着けた。JpNwstは日本の窒素インベントリの構築と廃棄窒素削減ポテンシャルの評価などを行い、SusNとともに日本の窒素管理研究を相補的に推進する。併せて、窒素の最大ユーザーが肥料であることを考慮して、PLはPRにおいて農水省と環境省の実務者をつなぐ役目を担ったところ、各省内の情報共有に加えて両省間で自由な意見交換を行う雰囲気が醸成された。環境省は日本の窓口として2022年からUNEPのWGNに参画し、環境省の要請を受けてPLとSusNメンバーの仁科はFR1半ばから専門家としてWGNを支援するようになった。WGNには農水省も参画し、関係者との議論を必要に応じて実施してきた。環境省の信を受けてPLはUNEPのGPNM運営委員に推挙されて採択され、国際窒素管理へのコミットメントが強化された。結果、環境省は世界に先立ち窒素管理の国家行動計画の策定に取り組むことになり、この検討会をPLと仁科などが支援し、FR2半ばに「持続可能な窒素管理に関する行動計画」が策定・公表されたのである(環境省, 2024)。また、GPNMの次期共同議長(2024年11月~)の一人が環境省より選出された。GPNM運営委員であるPLとの連携が一層強化される見込みである。今後はこれらの活動において引き続き環境省や関係省を支援する。また、PLは2022年11月より3年任期(2期まで可能、SusNが完了する2027年度までを包含する)でINI東アジアセンター代表・同運営委員に選出された。窒素問題の解決に取り組む専門家グループであるINIにPLがコミットすることは、SusNの国際活動、特に国際窒素管理や世界のステークホルダーとの超学際研究の展開に大きな力を与える。INIが原則3年ごとに主催してきた国際窒素会議の第9回会議は2024年2月にニューデリーで開催され、次回第10回会議の京都開催(2026年11月)を提案して満場一致の承諾を得て、準備にかかっている。
5)目標に達しなかったと評価すべき点
ブレイクスルー①窒素の因果解析について、窒素問題のCBAを行う枠組みづくりが遅れている。最大の理由は、参考としたい世界スケールのCBAが掲載される予定であるINA(INMSプロジェクトの最終成果物)の発刊が度々遅れて2025年秋にずれ込んだことによる。PLはINAの編者の一人であり、確実に有益な参考情報であることは確認しており、原稿の多くが印刷に向けた調整に入っていることから2025年秋の刊行は実現すると捉えている。FR1で生じたこの事態に対応するため、下水道を対象としたLCAおよびCBAを習作として開始し、FR2も継続している。また、FR2後半よりLCA関連の新規連携プロジェクトBRIDGEが開始となり、FR3には富栄養化の被害係数の算定など、窒素問題のCBAを行うための研究活動を加速できると期待している。因果解析ツールの開発はチャレンジングであるが、FR5では少なくとも世界の研究の到達点をサマライズし、研究課題を展望し、後継に繋ぐ役を果たしたい。
6)実践プログラムへの貢献について特筆すべき成果・課題
所属プログラム「地球人間システムの連環に基づく未来社会の共創」が掲げる3つの目標、「多様な人間活動と自然との関係性や連環を解明して二律背反の減少と相乗効果の増大を目指す」、「コミュニケーション方法の開発」、および「持続可能な未来に向けた人と自然の関係性の変容」は、それぞれSusNのブレイクスルー①窒素の因果解析、②窒素の認識浸透、および③窒素利用の将来設計と合致する。特に「持続可能な窒素管理に関する行動計画」(環境省, 2024)の公表に伴い、今後始まるであろう各自治体の取り組みにおいて、実践プログラムが掲げる目標およびSusNのブレイクスルー双方の実現に向けた活動が可能になると期待する。
今後の課題
1) 来年度の研究計画
FR3における各班の計画と3つのブレイクスルー達成に向けた計画を以下に述べる。
自然循環班:1)河川・沿岸の水質に対する下水処理場の影響を広域・プロセス両面で評価する。2)全国の流域スケールの窒素動態の変化パターンを大気~山地~河川~沿岸までの水質データを統合して解析し、GISを活用して可視化する。3)過去と現在の全国山地渓流水調査データと機械学習を活用して全国森林流域の窒素沈着脆弱性評価を行う。4)首都圏・東京湾および琵琶湖の窒素循環解析を行うとともに経済評価班のInVESTモデルの解析を進める。
人間社会班:1)窒素フットプリント解析の精緻化を進める(例:拡張型産業連関表に基づく炭素・窒素のフットプリント解析、食料生産・消費における資源・エネルギー消費に伴う窒素排出の反映、仮想窒素係数の見直し)。2)CBAにも活用可能な将来の窒素利用のシナリオ解析を進める(例:食料生産のNUE向上、廃棄物・未利用資源の利活用、低炭素技術導入と廃棄窒素増のトレードオフ)。3)JST COI-NEXT美食地政学PJと連携したアウトリーチを進める(東松島市、志摩市)。
経済評価班:1)プラントベースフードの家計簿アプリ購買データを用いて消費者に対する情報・金銭的インセンティブの効果などを解析する。2)自然循環班と連携して首都圏・東京湾におけるInVESTモデルを用いた環境保全の選択実験を実施し、シナリオごとのCBAに必要な経済分析を行う。3)農業生産者を対象としたアンケート調査のデータ分析を実施する。
将来設計班:1)INAの国際CBAの枠組み援用を検討し、下水道のCBAとLCIAを進め、これらに活用可能な富栄養化の被害係数の算定を進める。2)人間社会班と連携して窒素フットプリントのAIアプリ開発に挑戦する。3)窒素問題の認識浸透に向けて講義・講演・トークなどのアウトリーチを積極的に行い、INA発刊に併せて日本語サマリを付したプレスリリースを行う。4)宮古島、与謝野町、南阿蘇など地方スケールのステークホルダーと連携して窒素問題の解決に向けた知見共有やアイデアの共創に取り組む。5)国内(環境省や農水省)と国際(UNEPやINI)の窒素管理の取り組みに貢献するとともにネットワーキングの強化に取り組む。
全ての班および外部と連携してJaNAの執筆を進める。N2026の準備を進め、連携が期待される活動(大阪万博京都・大阪パビリオンや高校生とその教員と連携したユースの取り組みなど)を支援してN2026への還元を図る。
2)来年度以降への課題
- PDとの議論では、文化的アプローチの強化が望ましいとの助言を得た。食文化の専門家はメンバーにいるものの、異なる切り口で文化を捉えることも重要と考えている。FR3において日本の公害問題の原点の一つともいえる水俣地方への展開を図るため、南阿蘇に拠点をおくメンバーを核として、地元のキーパーソンとのつながりを構築しているところである。また、メンバーが自由に意見をたたかわせて自発的にプロジェクトを進める体制の醸成には努力が必要と認識している。引き続き、PL-班長間の情報共有と意見交換を密にするとともに、PLは必要に応じて各班長を介してメンバーの活動を後押しし、個別具体の取り組みを通じてメンバーの協働を促進する。Fサブリーダー不在は問題ないと判断している。ただし、PLが動けなくなる事態のリスクヘッジは必要とも考えている。
- アウトリーチ活動において広報室の支援を適宜いただきたい。共通サイトのうち特に琵琶湖については地球研の豊富な研究蓄積の活用に便宜を図っていただきたい。東・東南アジアを中心とした国際ネットワーキング形成、国際窒素管理へのコミットメントなど、地球研の国際ミッションの達成にも有益な取り組みが多いことから、PLから地球研への情報共有に努めるとともに、例えばFuture Earthの取り組みとの連携など、地球研から必要な支援をいただけるとありがたい。2026年11月2日~6日(7日にエクスカーション)に国立京都国際会館においてINI主催の第10回国際窒素会議を開催する。地球研には特に11月3日文化の日の一般向け公開シンポジウムおよび同日か会期中別日に計画する国際ワークショップを担う形での共催を願う。同年度の国際ワークショップ等開催経費の内諾に感謝する。日本初となる国際窒素会議の共催は地球研にも重要な実績となる。SusN最終成果物の日本窒素評価書(日本語版・英語版)は、それぞれ地球研和文学術叢書および英文学術叢書としての刊行を希望し、前者については広報室を通じて京都大学学術出版会の了承も得て制作に取りかかっている。これらの出版への支援にも協力を願いたい。