プログラム | 土地利用革新のための知の集約プログラム:土地利用の根源的な革新による地球環境問題解決に向けた知の集約 |
プログラムディレクター | 荘林 幹太郎 |
URL | https://www.chikyu.ac.jp/rihn/activities/project/program/02/ |
研究目的と内容
(目的)
地球環境問題の緩和とそれへの適応のために様々な社会経済活動と自然資本との関係性をそれぞれの地域において劇的に改善する必要がある。本プログラムでは土地の所有や利用に関する新たな考え方を提示するとともに、利用の変化をもたらす仕組みを社会実装しスケールアップしていくための科学に裏打ちされた汎用的な制度的枠組みや政策を構築し、国際的に共有することを目指す。
(内容)
地球環境問題には土地利用が深く関係している。土地の上で営まれる社会経済活動による温室効果ガスなどの排出、土地利用の変化に伴う生態系サービスの劣化などが地球環境問題の中核を構成していることはよく知られている。一方で、土地利用は世界レベルでの人口増加を支えるための食料生産に重要な役割を果たすだけではなく、遊水地や緩衝地帯の確保などを通じた洪水被害の緩和や生態系の保全などの地球環境問題への適応にも貢献する可能性を秘めている。さらに、土地の利用方法の改善は、流域生態系の改善や土壌や森林の炭素貯留の強化、再生可能エネルギーの活用などによる地球環境問題の緩和にもつながる。
しかしながら、IPCCなどの報告書によれが土地利用の改善は世界的にみて順調に進んでいるとは言い難く、土地利用と地球環境問題の複層的な関係性を踏まえたうえでの劇的な改善が求められている。その際、個別の土地に着目するのではなく、一定の地理的範囲においてその改善を構想する必要がある。面的な広がりを持つことによって初めて効果が発現される、あるいは効果が大きくなる場合が多いからである。さらに、多くの土地は私有財産であり、その利用に一定のルールを適用するためには、土地に対する所有や利用の「考え方」が現状のままでよいのかという根源的な問いも強く意識する必要がある。土地利用が地域の文化の基盤になっていることや都市と農山漁村の相互補完性・連関性等も土地利用の改善を考えるときの重要な視点となる。
これらを念頭に、科学的知見を最大限に活用しつつ、①土地の利用改善のための新たな仕組や主体の構想、②それらをスケールアップさせるための制度的枠組・政策の提示、③知見を共有し革新的なアイディアを創出する国際的「政策生態系」(「研究の進捗状況」を参照)の役割を果たすことによる制度・政策のメインストリーム化・国際標準化、に資することを本プログラムは目指す。
本年度の課題と成果
1.プログラム運営原則の構築
プログラムの運営原則を以下のとおり定め、プログラム内での各プロジェクトの自律性や革新性を確保しつつ、プログラムとしての統合性を担保することとした。本原則は、プログラム期間中のプログラムの進捗チェック等においても重要な役割を担うものと位置付ける。
(土地利用革新プログラムの運営原則)
・ Preserving autonomy of each project based on its original idea.
・ Achieving synergies between projects under the program, collaborating with domestic and global organizations outside the program, and securing opportunities for dialogue with policy makers and actors (establishing “policy ecosystem”).
・ Confirming the level of achievements of the program mission and sharing and synthesizing issues.
・ Disseminating outcomes as a program and contributing to international norm building and rule making.
2.初年度実施IS及びFSへの支援
プログラム初年度の本年度の最重要事項として、初年度公募で採択した1件のFS及び6件のISに対する次ステージへの進出に向けた支援を行った。なお、前期中期計画から継続しているFairFrontiresプロジェクトの進捗等については同プロジェクトの進捗報告を参照されたい。
(2023年度実施IS,FS一覧)
区分 |
プロジェクト名 |
提案者 |
FS |
Satoyama Reconnections: Engaging communities in resilient, nature- and climate-positive land use futures |
Janet Dwyer (University of Gloucestershire, UK) |
FS (註) |
リジェネラティブ・コモンズのための離散的ガバナンス (Discrete governance for regenerative commons |
中島 弘貴(東京大学) |
IS |
氾濫原―輪中景観における災害軽減/生態系保全のための自然・文化を基盤とする解決策の体系化:持続的な地域の共創に向けた社会規範の再構築に向けて |
田代 喬(名古屋大学) |
IS |
脱炭素化の推進に対応した新たな土地利用規範の構築 |
野津 喬(早稲田大学) |
IS |
生態系サービス支払いを通じた農地利用革新 |
神井 弘之(日本大学) |
IS |
ネイチャーポジティブな社会に向けた土地利用の包括的転換プロセスの研究 |
田村 典江 (事業構想大学院大学) |
IS |
バイオエコノミーがもたらす土地利用秩序を展望する |
長野 宇規(神戸大学) |
註:本提案は、ISとして開始したがFast Track制度を活用して年度途中でFSに転換した。
支援の具体的な取り組みとして、地球研として実施したIS,FS発表会(6月実施)に加えてプログラムとして土地利用革新に関する理論や政策の最先端を共有するために、6回にわたり以下の「土地利用革新セミナーシリーズ」を実施した。上記の原則に示す通り、各応募研究内容の独自性や革新性を保持しつつ、土地利用の革新というプログラムテーマへの貢献を確実なものにするために、土地利用に関する理論、実践、政策に関する基本的事項を各研究で共有することは、プログラムープロジェクト制の内実を確保するための前提との認識のもとに同セミナーシリーズを企画した。なお、セミナーシリーズの企画に当たっては、セミナーシリーズの実施企図を事前にIS,FS研究者と共有するとともに、各IS,FS研究者からもセミナーで対象とする事項についての希望を聴取するなど、各研究に対する公平性の確保に配意した。
(土地利用革新セミナーシリーズの概要)
第1回 土地利用調整に係るワークショップ ~新たな土地利用調整を考える~
講演者 :荘林 幹太郎(総合地球環境学研究所) 森野 真(滋賀県農政水産部)
形 態 :ワークショップ形式
日 時 :2023年8月7日場 所 :滋賀県庁 北新館
第2回 Ambitions, challenges and opportunities for sustainable agriculture in the context of climate emergency: perspectives from the UK and Europe~気候危機に対応するための持続的農業に向けた野心、挑戦、そして機会:英国及び欧州の視点から~
講演者 :Professor Janet Dwyer (University of Gloucestershire, UK), Professor Lois Mansfield
形 態 :セミナー(ハイブリッド)
日 時 :2023年9月26日
場 所 :総合地球環境学研究所 講演室
第3回 農地の多面的利用を巨大スケールで実現する ~一関遊水地の取り組み~
講演者 :倉田 進(農林水産省 農村振興局) 遠藤 圭二郎(照井土地改良区)
形 態 :セミナー(ハイブリッド)
日 時 :2023年10月25日
場 所 :総合地球環境学研究所 講演室第
第4回 Main findings of the new OECD report “Built Environment through a Well-being Lens” launched on November 13th ~11 月 13 日に発表された新しい OECDレポート「ウェルビーイング・レンズを通じた建築環境」について~
講演者 :Ms.Elena Tosetto (OECD WISE Centre)
形 態 :セミナー(オンラインのみ)
日 時 :2023年12月15日
第5回 Novel incentive mechanisms for agri-environment and climate schemes ~欧州の農業環境政策の理論と実際の最前線~
講演者 :Professor Uwe Latacz-Lohmann (Kiel University, Germany)
形 態 :セミナー(オンラインのみ)
日 時 :2023年12月18日
第6回 Spatio-temporal Changes in Land Use and Human Settlements in Korea, and Lessons for 'Megacity Debate’ and Spatial Sustainability
講演者 :Professor Park SooJin (Seoul National University, Republic of Korea)
日 時 :2024年2月1日
場 所 :総合地球環境学研究所 講演室
3.FR開始プロジェクトの決定ならびに決定に際してのプログラムの視点
2024年2月に開催されたERECでの審査等を踏まえて、2024年度からJanet Dwyer教授をプロジェクトリーダーとする「Satoyama Reconnections: Engaging communities in resilient, nature- and climate-positive land use futures」がFRに移行することが決定した。なお、同教授の地球研とのクロスアポイントメントが2024年3月末までに整わないことが明らかとなったため、当初予定を変更して2024年度はクロスアポイントメントが整い次第、PRに移行し、2025年度からのFR開始を予定している。
FSの審査に際しては、プログラムミッションが規定している重要な観点について、各FSの対応を比較した下表を審査の際の参考としてERECにおいて提示した。これにより、プログラムミッションの達成可能性の観点もFS審査の際に適切に勘案されることを期待したものである。なお、対象となった2つのFSについては、プログラムミッションとの整合性は高い水準で確保されており、かつ、それぞれが重複しない内容となっていることが確認された。
Key features |
Dr. Dwyer’s FS |
Dr. Nakajima’s FS |
Land use |
Forest and farmland (covering over-use and under-ruse) |
Urban use with the linkage with land use in rural areas |
Land Ownership |
Private properties and commonly owned properties |
Private properties |
Novel concepts for land use |
Reestablishing human-nature relationships for working land |
Establishing new coordination between urban and rural areas based on self-organization by aggregators and intermediaries |
Incentives |
Markets, policies, communities |
Off-site tools |
Proposed Governance |
Region and community -based governance supported by harmonized policies and institutions |
Shift from nested governance to discrete governance |
Impact assessment |
Satoyama Integrated Landscape Appraisal (SILA) |
Impact and process assessments |
The way how TD research will be implemented and country coverage |
Six Living Labs: 2 EU countries+2 non-EU European Countries and Japan |
Collaboration with intermediary organizations and aggregators: Japan and Thailand |
Scale up strategies |
Close coordination with national governments and international organizations |
Combining top-down and bottom-up approaches (Sandwich governance)
|
4.プログラムとしての統合的な取り組み
プログラムのミッションをより広く共有するための第一歩として農地利用政策の革新の必要性を論じた論文「農地利用政策と地球環境問題:今日的な政策革新の必要性」を執筆した。さらに、アカデミックにとどまらず行政、農業団体等向けの講演を積極的に実施した。
また、国家レベルの政策との結合についての助言を得るために元農林水産省事務次官の末松広行東京農大教授を、農地利用の変更に圧倒的な影響をもたらす農業環境政策についての助言を得るために同分野の世界的権威であるウヴェ・ラタッシュ・ローマン キール大学教授を、それぞれ客員教授として迎えることを決定した。
さらに、国際的なネットワークとしてOECD、欧州委員会(EUの行政部門)、IFPRI(国際食料政策研究所)等とのネットワークの強化を図った。
5.プログラム間の相互補完性の確保
3プログラムとの横断的連携の取り組みの一つとして3人のプログラムディレクターと共同で「Rethinking “Policies” in Transdisciplinary Research (「あらためて超学際研究における政策との向き合い方を考える」)」を企画した(第18回地球研国際シンポジウムとして)。
今後の課題
1.FS研究に対する支援
2024年度に実施する6件のFSに対して、引き続き土地利用革新セミナーシリーズによる共通基盤の構築をはかるとともに、ワークショップなどにより超学際研究のあり方に関する共通理解の醸成をはかりたい。
2.FR移行プロジェクトに対する支援
DwyerプロジェクトのPR実施期間中に体制整備に関する支援をプログラムとしても提供し、2025年度からの円滑なFR実施につなげることとする。
3.プログラムミッション達成のための評価マトリックスの作成
プログラムの下でのプロジェクトによるプログラムミッションへの貢献を総合的に把握するための方法論を確立する必要がある。2024年度はそのための評価マトリクスの構築を予定する。
4.土地利用政策生態系のハブとしての地位の確立のための取り組み
土地利用政策に関する国内及び国際政策の生態系の一部としてプログラムが機能するために政策の主要アクターとの意見交換を行う具体的な「場」の構築を企画する。